上智大学2021年度春学期・法科大学院「経済法I」「経済法II」のページ

法科大学院「経済法I」「経済法II」については、各回の授業に係る事項はMoodleを通じて情報提供します。このサイトは、特に「経済法」に係る研究・実務の動向についての備忘録、情報の整理ボックス的に利用します。参照するときは授業中、あるいはMoodleで指示を出します。このサイトはURLをダイレクトに知らないと入れない(リンクがない)状況になっています。このサイトは授業の「メモランダム」として記録していきたいと思います(次年度以降にも有用です)。漏れがあれば、文章をください。こちらで加工し、アップロードします。

4/5 経済法II 初回 

経済法の「解き方」を解説。

・ある程度の短期間でゴールマウスにシュートするのは可能(ただし条文選択ミスのような致命的なリスクは少なくない)。一通り勉強してからの「慣れ」が重要。ケースブック、百選はミニマム(試験的には関連性の薄いものもあるが)、公取委指針の類、相談事例ぐらいまでは上級者はフォローアップ。何よりも練習問題を多く解くこと(過去問15年分、30問、その他予備校の類、研究者作成のそれを集めて実践)。自分で問題が作れるようになれば「圏内」。

・「意味不明なもの」を積極的に覚えればよい。政策的介入は専門的なので裁判官はわかりません→いやいや人権の侵害と規制の必要性からすれば、逆でしょ。

・独禁法は憲法上の「営業の自由」(=職業選択の自由)問題として議論されるが、浴場規制のような立地問題ならわかるが企業の事業活動全般(=独占化の懸念)を扱う独禁法の存在を問うのは果たして職業選択の自由の問題でよいのか? 財産権の問題ではないのか?→二つの条文の性格の違いに起因か? 

・連邦憲法修正14条1項: “All persons born or naturalized in the United States, and subject to the jurisdiction thereof, are citizens of the United States and of the state wherein they reside. No state shall make or enforce any law which shall abridge the privileges or immunities of citizens of the United States; nor shall any state deprive any person of life, liberty, or property, without due process of law; nor deny to any person within its jurisdiction the equal protection of the laws.” 一方、憲法31条:「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」・・・「財産」についてのデュー・プロセスがない!(自由には読み込めるが・・・)→自由に対する権利は経済的なものも重要なのに、憲法は「経済」的なそれを軽視か?

・経済法は勉強してて「消化不良」が多い。理屈が詰めきれていない話が非常に多い(法律論はしょぼい→むしろ割り切って(真剣にならず)頭に入れていいレベル)。裏を返せば法律論的には薄っぺらい分野。むしろ「競い合い、競争制限」のシナリオ作りが精緻にできている(とは言え、実務レベルではあまり科学的ではないが)。→産業組織論の知見がバックグラウンドにある。

・無駄な解釈論を書くのは下策、しかしあれっと思いながらも書かねばならぬ時もある。

4/8 追加

なぜ憲法31条では財産権への配慮がないのか? それは29条の構造と関係があるのか?1)29条1項が財産権の(公権力等による)不可侵性を概括的に規定、2)同3項が公共の福祉に正当な補償があれば用いてもよい(e.g.収容・没収)としつつ、3)同2項で、法律という国民代表によって民主的プロセスを踏んで定められる規定により、公共の福祉に用いられる財産権の内容が決められ、財産が好き勝手に収用・没収されないよう直接的ではないが担保される(上記法律により定められる段階で民主的な必要プロセスを踏む)制度になっている。

日本国憲法では修正14条の様に明確に財産をdepriveするためには、生命・自由と異なり、due process of lawを必要とすると31条に規定されていない。これはもしかしたら、1946、47年の段階で「経済復興」のために、財産権のあり方については「国家のコントロール」を強く及ぼしたいという思惑が憲法の側(?)にあったからではないか? つまり、生命、身体(+精神的自由)への解放は絶対的なものと位置付けつつ、経済(財産)については自由にできない(すると混乱する)=資本主義国でありながら社会主義的な国家運営をしたい、という戦後ビジョンがあったのではないか、という「仮説」をおきたくなる。

一方で、1906年のLochner判決(州の労働時間制限を連邦憲法違反にした)は20年後に覆されることにになりますが(ニューディール期の入り口)、そこでは連邦憲法上「契約の自由」が保障されるのか、という論点として、経済に対する介入の実体的Due Process違反が問題になった。これはホームズ判事のいう「精神的自由>経済的自由」の(20世紀前半の)二重の基準の憲法上の性格を基礎付けるものといえ、もしかしたら、こういったアメリカの時代状況を受けて日本では資本主義の制度的保障にとどめ、資本主義=財産権+契約の自由への介入を曖昧なものにした(逆に精神的自由については戦後民主主義の潮流で聖域化した)という説明も可能ではないか? 

独禁法が営業の自由の問題にされ、それが職業選択の自由の問題として議論されたのは、29条の性格が「鵺」のようなものだったからか? 私は実は、今でも29条のポジションがよくわかりません。第一、日本の憲法で「契約の自由」が正面から議論されることがないのがなぜなのか、よくわからない。

4/8の授業を踏まえて(4/9更新

授業進行がまずく中途半端になってしまったので、ここでフォローを。

p.1 競争か、自由な競争か、公正な競争か、さらには民主的な競争か? 独禁法は「鵺」のような存在。現代では、競争を機能させるために「自由」と「公正」を保護するという考え方が支配的。競争が機能する=支配的事業者が競争機能を歪めない=(そういった意味で公平、公正という意味で)民主的、という理解がコンセンサスといえる。しかし、かつてはマルクス主義(的)なドグマが強くて「大企業性悪説」を前提としたかのような独禁法の理解がまかり通っていた。

実はアメリカでもそうで、マルクス主義ではないが穏健な社会主義的な発想はあって、new deal期は政治的な色彩が強かったし、もっと前の反トラスト法創成期(19世紀終わり)では経済的効率云々ではない「支配・独占への攻撃」という社会的、政治的な背景は否定できない。いまGAFAの脅威を前に、19世紀から20世紀前半のドグマを復活させようという傾向がアメリカにはある。少し前まではシェアが高くても効率性を反映していればOKという考え方(競争はその手段に過ぎない)が強かった(これはしばしばシカゴ学派と呼ばれたりする)が、20世紀前半の政治的意図を反トラスト法に持ち込んだ象徴的な判事の名前を使用して「新ブランダイス主義」などと呼ばれることがある。*その潮流で登場したリナ・カーンという当時イエール法科大学院の学生だった人物によるAmazon’s Antitrust Paradoxという論文が非常に有名(価格低下によって独占を強めるAmazonに対しては、効率性による正当化をすべきでないし、反トラスト法はこの種の独占に断固として戦うべき=ネットワーク効果を考えれば誰でもいえる話だが・・・)。

p.2最後のパラグラフ:

わざわざこんなことをいう(基本法だとか、国際的課題だとか・・)背景は? 裏を返せば、日本は制定後半世紀にわたって「放置状態」だったということ。

p.4 「事業者」の定義:そのまま覚えて、必要な時に利用する(もちろん条文が最初にある)。それだけ。ついでに「事業者団体」の定義も覚えておこう。「〇〇協会」とか出てきたときは8条の問題になることが多い(自ら事業活動をしていれば3条とか19条=ここ実は大事)ので、この条文を引けるようにする(試験に出るくらいだから「当てはまる」というイメージで・・・。当てはまらなかったらそこで解答が終了してしまう)。

p.5 「競争」の定義:実はあまり意味がない(意味があると思っているのは白石さんくらい)=競争過程(機能)が阻害されていることを問題にするのか、個別の競争者が排除されても問題にするのか、はこの定義は何も伝えていない(マルエツ・ハローマート 事件を想起せよ)。

p.5後半で需要者云々に拘った記述があるが、要は「何事も実質的に考えて」ということ。独禁法は結局、これに尽きる。基本的な発想を固めたら、あとは実質的に考える、だけ。

p.6 規制手段:個々の類型のイメージを持つこと(やり方は違うが全部競争に悪影響を与える類型として説明。そうでないものは例外として覚える)。試験的には「競争」が全て。

p.8 色々「ガイドライン」に言及があるが、これらは必須のものばかり。

p.9 囲み記事は「厳密」ではないが、こういった問題意識は重要。切り分けは「理屈」ではなく「経験」。

p.10-16 法執行(エンフォースメント)は「気合」で覚える。といっても試験では条文を見れるので、頭には「引き出し」の整理がされていればよい(=条文はぐちゃぐちゃなので、整理は必要)。

4/11更新

第2章:質問を受ける形でメモを作ります。

  Q1.  (テキストp.20「相互拘束と共同遂行」)相互拘束の要件として「共同して」行われること挙げられ、具体的には「意思の連絡」が必要とあります。尤も、p.21では「相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容」でもよいとされています。「暗黙の認容」は非常に主観的行為であるも、暗黙であるから客観的判断になじまず、認定の実際は公取委や裁判所の主観によるとの印象を受けました。p.21では東芝ケミカルの事案では、高裁判断では「価格引上げについて情報交換」のみにより「意思の連絡あり」と評価されています。これは認識はともかく、認容まで認定するのは無理ではないか、よって2条6項では読めない極めて主観的判断ではないかと思えるのですが、どう読めば上記高裁の事実認定になるのかご教示頂ければありがたいです。

A1. 認識・認容をもって「合意」となるので、明示の合意と同じようなコミットメントを導けないといけないということなのですが、「相手の出方を読んで競争しないという行動をお互いに承認する心理」などという主観を、客観的に導くのには無理があるという直感はその通りですが、しかしそうすると「情報交換を巧みにやって何も決めない」というカルテルのスタイル(空気を読む)が横行することになりますので、これは避けたい・・・ではどのような条件をもって明示の合意と同視できるような状況があったといえるか、ということで「暗黙の了解」タイプの意思の連絡の議論が出てきました。試験的には「そうなのだ」と割り切るところです。

心理という主観を客観面で導くポイントは「推定です」。情報交換という客観的事実があるので、推定として心理を認定する、ということです。推定すらできない、と考えるのも筋ですが、確かに狭い業界でカルテル体質があれば、情報交換=空気を読もうという「推定」はいけそうな感じがします。東芝ケミカルの事実ではやや物足りないかもしれません。そもそもカルテル体質があるなどの追加的情報が欲しいのはその通りです。

後で出てくる郵便区分機の事件は、そもそも競争しないという慣行が先行しているので、暗黙の了解タイプの意思の連絡がいいやすいケースだったのだと思います。

 Q2.  上記1との関連で、価格カルテルが業界トップ数社で行われ、その結果、左記カルテル当事者のみならず、それ以外のマーケットシェアの低い数社も価格引上げに追随した場合、上記カルテルが不当な取引制限とされれば、独禁法違反に問われるのは上記カルテルの当事者のみでしょうか(意思の連絡は当事者のみという理由で)。仮に課徴金の対象になった場合、追随した数社がその対象にならないとすれば、所謂フリーライダーで不当な利益を得ているにもかかわらず処罰対象でないことは問題で、対象とすべきと思うのですが、「意思の連絡」がないことからその対応は無理でしょうか。

A2.
1)カルテルの情報を得て、それに追随した場合と
2)値上げを知って追随した場合で分けた方がよいと思います。2)は違反にできないでしょう。
1)の場合、最初の当事者が、カルテルの情報を他に流して「追随するだろう」と期待し、その期待通りの行動をした場合には、
やや片面的ですが意思の連絡がいえそうなケースですね。そういう問題(後から参加したケース)は試験的には出そうなところです。あるいは最初に参加したが実行前に離脱した、あるいは権限のない担当者が参加した・・・そういうバリエーションは3条後段シリーズの問題のヴァリエーションとして用意しておく必要があります。

 Q3.  上記2との関係で、石油価格協定刑事事件では、何らかの経済的メリットがあるから従うだろう、という関係があれば「不当な取引制限」に当たるとされます。これではもはや一方的推測によっても「意思の連絡」を認めることとなり、条文の文言と離れすぎではないかとすら思います。この点、百選(29番)では不当な取引制限は、拘束すべき合意をした時点で既遂とすると述べていますが、これだと上記(一方的推測)と矛盾するのではないかと思われます。一方的推測でも、結局従う蓋然性が高いとすれば、実質的な「意思の連絡」認めるという整理でしょうか。

A3. 31pの記述ですね。ここは「拘束」は裏切りのサンクションがあるような強いタイプの制約ではなく、自分にとってメリットがあるからしたがっておこう程度の「約束」で足りる、という話なので、「一方的推測」の話とは切り離して理解するところか、と思います。

 Q4.  (同p.22)多摩談合事件における「本件基本合意」の内容は手段の認識程度、甘めに見ても、せいぜい協力する程度の内容と判例にある事案の内容から考えられるのですが、これをどう考えれば「互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡」があったという認定を最高裁がしたのかにつき、理解できませんでした(一方的推測の事案ではないと思われます)。講義で「法の解釈の法の解釈の精緻さが」と仰られていたことの表れの様な気がします。意思の連絡の有無の境界についてご教示頂ければありがたいです。

A.4  
このあたりになると異論が多くありそうなケースですね。だからこそ業者は最後まで争ったのだと思います。単純な基本合意で単純に違反というのは実態としてはあまりなく、「じわじわ」と競争制限の認識・認容に至るというのが実態だと思います。あえて言えば、繰り返しのコミュニケーションを通じた「明示の合意+暗黙の了解」のハイブリッド型意思の連絡という感じですね。これを断片的な事実から証明しようというのですから無理が出てくるのでしょう。

その際用いられるのが、遅くとも〇〇日までに合意に至った、というフレームワーク的な認定です。よくわからないけれども総合するとこんな感じ・・・という認定手法です。刑事事件だったら耐えられない感じもします。

談合事件は多くの場合、間接事実からの要件に係る事実の推定→要件認定というプロセスを経ます。その間接事実が、明示の合意を導くものなのか、暗黙の了解を導くものなのか、悩むことが多いです。間接事実から暗黙の了解型の事実を推定して、そこから意思の連絡を推定するという推定の推定がどこまで許されるのか・・・行政事件なのでOKという感覚はあるかもしれません。これを刑事事件にしようとして公取委が検察に告発したら検事は困ってしまうかもしれません。


 5.  (同p.29)協和エクシオ事件と福岡市造園工事談合事件で、受注実績のない協力会社に相互拘束を認めるか否かにつき、将来における貸し借り清算の期待の有無で「相互拘束」の認否を判断しているように思われます。テキストにもありますが、一般に入札参加者は受注する意思・能力があるので、上記福岡の事案が極めて特殊な例外(意欲も能力もない)で、まずは協和エクシオの判断プロセスを相互拘束の有無について考えておけばよろしいでしょうか。

A5.その通りと思います。造園事件は将来の見返り型の相互拘束を拾い始めると、際限のない違反者数が出てくるという危惧があったのかもしれません。一定額以上の契約金額で市場をとる合理性が疑われますので、その範囲の中で業者数を絞りたかったという思惑が感じとれます。地方の事件(中小企業が多数存在する公共工事)では、場合によっては100者とかになりますね。



 4/14更新:前回の授業(4/12)のコメント

<共同性>共同性と相互拘束性の切り分けが簡単ではない。暗黙の了解タイプの合意の場合、意思の連絡に「相互の認容」まで入るので、ほぼ拘束まで認定しているのではないか?そうすると事実認定のどの部分をどちらに使うのか、という悩ましさが生じる。公取委の認定の場合、事実を全般的に認めた上で「共同性あり」「相互拘束あり」となるので、明確に切り分けていないのが実態。

多摩談合事件最高裁を前提にすると相互は共同にリンクするので、拘束だけの認定になるが、暗黙の了解で共同性まで認めた場合の拘束はどうするのか?同じ事実を重複して使うが、要件の違いに合わせる形で言い方を変えるというやり方になるだろう。

そもそも拘束は「相互性」の論点が大半を占めていたので、それが飛ぶという前提になると、議論されること自体がなくなるのではないか(制裁の有無論程度だろうか?)

<事業者性か相互性か?>

カルテルの当事者を競争者に限定するかという論点については、元々4条の問題だったので「事業者」の問題として判例も議論したが、なぜかそれが3条問題にまで及んだので、歪んだ議論になってしまった。学説は「相互性」で議論しようとする傾向。ここは予め、自分の「スタイル」を決めておいた方がよい。

4/16追加:4/15の「経済法I」のメモ

関連市場という言葉:独禁法上は「一定の取引分野」としか書かれていないので、それを「市場」という言い方にする際の、独禁法違反の認定に係る関連する市場という意味。

市場シェアが競争の実質的制限に意味を持つ場合と持たない場合→法律論では全くないが、事実認識として(経験上、理論上)どのような場合にシェアが効いてくるのか、はある程度のリストは頭に入れておいた方がよい(各種ガイドライン等にいろいろヒントが存在する)。

多摩談合事件で「関連市場を広くとる」という操作→違反事業者を広く網をかけるための「やり口」 *条文構成上は違反事業者の範囲も共同性の射程も、(相互)拘束の射程も「一定の取引分野」の中に限定されていない・・・違反の有無だけについていうなら感覚的な部分だろう。ただ、競争制限効果の責任を多くの事業者に負わせるためには「市場内」にいることがポイントになる。→違反の効果や行為要件は「曖昧」になりやすいが、そこは独禁法得意の「間接事実からの推定の積み重ね」でいろいろ事実認定を進めていき、要件充足性を強引に認める「操作」を行うことになる。

4/19追加(経済法1):

協和エクシオ事件の問題性は、「明示の合意」を推定してもよいケースなのに暗黙の了解の推認を行なっていること、大した理屈がないので、東芝ケミカルよりも前の事件なのに先例として扱われていないこと(三要素説)。そして拘束の一方向性が「将来の見返り」を意識しているものの、それに合わせて市場の射程を曖昧にしてしまっていることなのでしょう。

暗黙の了解は、東芝ケミカル+郵便区分機、そしてそれ以降の重要判例、でしょうか。

4/21追記(経済法I)

・「排除行為」の認定について。「他の事業者の事業活動の継続を困難にさせたり、新規参入者の事業開始を困難にさせたりする蓋然性の高い行為(p.82)」と定義されています。同ページで「事業者が自らの効率性向上~排除行為には該当しない」とあることと、その後のテキストの説明から、実質的に不公正な取引方法(法2条9項)に該当する行為であれば、排除行為と認められるように思われます。そうであれば、私的独占の典型例の一つとしての排除行為というより、不公正な取引方法の典型例としての排除行為ではないかと思われ、あえて私的独占のカテゴリーに属させる必要性、現実に答案作成において、排除行為を認定し、これを私的独占とするのか、不公正な取引方法として論ずるのか、理解が及んでいません。どのように整理すべきかご教示頂けませんでしょうか。

  優先順位としては「私的独占」>「不公正な取引方法」と考え、1)効率性を反映しない排除、2)不公正な取引方法に該当するような方法での排除、を私的独占に含めるという処理がなされるということです。2)はそれならば不公正な取引方法で行けばよい、という理解が自然であるように思えるというのはその通りで、結局公取委は不公正な取引方法の該当事例においてはそっちで処理する傾向がありました。しかしガイドラインでそういったケースも排除型私的独占で行こうとする言及があるのは、少なくない「やましさ」があるからなのでしょう。解答の手法としては不公正な取引方法がメイン、私的独占がサブというものをよく見かけます。

  • 上記1と関連してお伺いしたい内容として、排除行為として典型的なものとしてテキストに挙げられているコスト割れ価格、排他的取引、抱き合わせ、供給拒絶・差別的取扱についても不公正な取引方法の類型として検討するのが条文(法2条9項各号)からも良いのではないかという疑問が生じています。

その通りです。事案処理の技術としてはこちらを優先する方が収まりがよいと思います。

  • 有線ブロードネットワークス事件(p.84)について。前回の講義で詳細なご説明を頂いた事案なので、事案内容は十分理解できました。お伺いしたい内容は、この事案では(ご説明でもありましたが)商品を供給しなければ発生しない費用を下回っていたという事実認定はありませんでした。ただ高裁係属中に和解終結したので、裁判所の判断は存在しないのですが、テキストでは4典型行為類型に当てはまらない「排除行為」と記されています。法運用の透明性および行為者の予想可能性を担保するために排除型私的独占ガイドラインがあるにもかかわらず、そこで行為類型に当てはまらない本事案を公取委がそう決めたとして「排除行為」と答案に書いていいものか(そういうものと理解するつもりですが)疑問が生じています。どう表現するのが妥当かにつきご教示頂けませんでしょうか。

書き方が「ごまかし」ですね。「詰めきれない」のが実務家執筆のテキストの限界ですが、そもそも独禁法は詰めようがないほど実務が無責任に先行しています。そもそも条文のテキスト自体、詰められたものではないですし。試験での聞き方は「原価割れ」に対する何らかの言及を前提にすると思いますので、それをヒントにすることになろうかと思います。通常の競争で顧客が移動したケースは合法としかいいようがなく、そうでなければ「効率を罰する」ということになるからです。マルクス主義的な経済法思想が強かった時代ではないので、そういう思想を答案に求めることはないといってよいと思います。ただ、その他の妨害行為も確認される時は合わせ技で「取引妨害」、あるいは私的独占、という流れはあるかもしれません。

  • 商品を供給しなければ発生しない価格(p.86)について。平均回避可能費用が相当と記されています。脚注に「商品の追加供給をやめた場合に生じなくなる商品固有の固定費用及び可変費用…」とあるのですが、商品供給(それ以前の商品生産)をストップしたとしても固定費用のうち製造機械やそのために作った償却対象設備の償却コストは発生し続けるし、これらは当該製品生産のためのコストであることから、これを上記コストから除外するのが適切かについて疑問を持っています。どう考えればいいのでしょうか。

反競争のインセンティブとして説明できるかが視点となります。要は反競争的にしか理解できない行動(効率性追求する行動として理解できない)として事実認定するために、どのコストを下回ることが「もっともらしい」か、ということです。「商品の追加供給をやめた場合に生じなくなる商品固有の固定費用」が何なのか、ですが、ここで言いたいのは、元々存在する工場のメンテナンス費用が追加生産の回避によって不要になったとかなのでしょう。

に償却の話がいくつか出てきます。会計帳簿上の扱いと実態としての扱いの違いも考慮する必要があるのかもしれません。この辺は授業で詰めましょう。

  • 「従たる商品の市場において他に代わり得る取引先を容易に見い出すことができない競争者(p.95など)」について。これは物理的に代替取引先を見つけることができない場合と考えてよろしいでしょうか。具体的には、代替取引先はあるにはあるが、同社と取引すると多額の追加コストが生じ、経営上の問題になることから、実質的に経営を続ける観点で代替取引先を容易に見つけられない場合に当たるとするのは認められないということでしょうか。

ここは実態として考えるべきところです。物理的法的に代替不可能なのであれば当然、実質的に考えて、ということです。

  6.  「合理的な範囲を超えて(p.98)」について。「合理的」の意味についてお伺いします。代替仕入れ先のない川下企業が赤字に悩み、現在の仕入れ値でも赤字で、値上げすると早晩倒産するような状態である場合、川上企業としては値下げ・最低でも現状価格維持をすることが「合理的」になってしまうのでしょうか。同一グループ内の川上・川下関係なら調整はあり得るともいますが、そうでない場合、川上企業は「合理的」の文言に縛られて「お付き合い」せざるを得ないのでしょうか。特に川上企業にとっては販売先は上記川下企業に限らず複数ある場合、経営判断として左記企業との取引(一時)停止というのは十分考えられると思います。

ここは実は新規参入を政策的に促進するという文脈で語られることが多く、アファーマティブな要素が入ってくるところなのですが、独禁法的には「お付き合いは不要」というのがストレートな理解です。優越的地位濫用のような要素が入り込んでいるのかもしれませんが、私的独占の文脈では仁義なき戦いです(非効率は退場)。本来であれば所管官庁が業法でアプローチする問題です。

5/5追記:支配型私的独占についてのメモ

  独禁法の中で「雲をつかむ」ような感想を最も持ち易い違反類型が「支配型」の私的独占だろう。排除型私的独占が、「特定の誰か」の市場からの退出、市場への参入阻止によって競争に対する悪影響のシナリオが描写され、それが「イメージのし易さ」を伴うので、理解が早い。一方、支配による私的独占は、ある事業者と他の事業者の間に「支配する」「支配される」何らかの関係があり、その支配する行為を通じて(支配される事業者の行為を利用する形で)競争に対する悪影響のシナリオが描写されるのであるが、これがイメージし難いのである。「支配」が「意のままにコントロールすること」と定義されるが、特定の事業者をコントロールすることと、市場が機能不全に陥ることとの距離が見えないのである。

 結局は具体的なケースをいくつか見ることでそのイメージを作るしかないが、頭の整理のために支配型の中の類型を用意しておくことは有用だろう。支配型私的独占を理解するには、先ずはこの違反類型には二つのパターンが存在することを知ることである。支配型私的独占の違反事業者に対する課徴金の計算方法(ベースとなる売上額の導出方法)を定めた独禁法7条の9第1号の記述に、この二つのパターンが描かれている。その条文はこう記載されている。

当該事業者…が被支配事業者に供給した当該商品又は役務…並びに当該一定の取引分野において当該事業者…が供給した当該商品又は役務…の政令で定める方法により算定した、当該違反行為に係る実行期間における売上額

 課徴金は法律に定められた算定率(この場合、10%(同条柱書))を法律に定められた違反事業者の売上額に乗じる形で導出するが、支配型私的独占の場合、次の二つの売上額が問題になるという。  

(1)違反事業者が支配される事業者との間に取引がある場合(→取引相手に対する支配)は、その取引の売上額

(2)違反事業者が支配される事業者との間に取引がない場合(→取引相手以外に対する支配)は、競争が制限される市場における売上額

 違反事業者がその取引相手を支配するというのはどういうことだろうか。「支配」の定義は実は頼りないもので、実質的競争制限の伴わない支配行為だけで不公正な取引方法における優越地位濫用規制違反が成り立つのか、という問題のも発展しよう。「意のままにコントロールする」ことの極端な形態は「奴隷契約」だが、そうでもない限りどのような契約も「損得計算で」なされることを考えれば「意のままにコントロールする」と判断する基準(線引き)をどこに見いだすのか(どこに引くのか)という問題は、不明なままである。

 そういう問題を抱えながらも、言い換えればそんなものだと割り切って、個々のケースを眺めることでイメージを作ることが大事である。「境界の曖昧さ」問題は「納得して学習を進めたい」学徒にとっては「嫌な相手」だが、「お上」の実務が実務だというならば、「納得感がない」ものだと記憶しておけば記憶できるものでもある。  

 「取引相手の支配」型

 取引相手の支配によって競争を制限するシナリオは、自らの競争者をコントロールする特殊なケースである。

・パラマウントベッド事件(公取委勧告審決平成 10・3・31 審決集 44・362)

・農協福井経済連事件(公取委排除措置命令平27・1・16審決集61・142)

・日本医療食協会事件(公取委勧告審決平8・5・8審決集42・209)

 「取引相手以外の支配」型

  取引相手以外の支配によって競争を制限するシナリオは、自らの競争者をコントロールする特殊なケースである。

・野田醤油事件(東京高判昭32・12・25高民集10・12・743)

・東洋製罐事件(公取委勧告審決昭47・9・18審決集19・87)

・日本医療食協会事件(公取委勧告審決平8・5・8審決集42・209)

ポイントは競争者を支配するという「特殊さ」をどう説明するか、である。競争者をコントロールすることができるところまで説明できれば、実質的競争制限の認定は容易なものとなろう。なお、日本医療食協会事件は支配型の二つのタイプが被っているが、これは医療職協会という許認可団体が被支配事業者であるメディカルナックスとは「手数料」を通じた取引関係にある一方、既存事業者である日清医療食品とメディカルナックスとは競争関係にあったが故のことである。

<参考>

5/21 更新

CB3−2について                                         Q4: 「参入阻止=競争の実質的制限」は排除型私的独占の場合の効果要件を東宝・スバル型でみない学説(根岸説)になろうかと思います。本件は競争の実質的制限の理解はどのようなものだったのでしょうか?

Q4: 問題文は不公正な取引方法について聞いているので、おそらく「取引拒絶」「排他条件・拘束条件付取引」あたりでの展開を期待しているのだと思います。これらはまだ授業で扱ってませんので、その後で(覚えていたら検討しましょう)やりましょう。

CB3−3について                                回答については特にありませんが、インテル事件は「微妙な事件」だという認識が持てればよいのではないでしょうか。効率性も基づく排除とはいえませんかね?                   

CB3−4について                                Q4:共同の取引拒絶(不公正な取引方法)、不当な取引制限該当性ですが、どうでしょう。特に後者は、「相互性」が引っ掛かりそうです。試験に出たらどこまで「引き出し」を見せるか、ですね。

Q5:課徴金の射程についてはどこかでまとまった形でやりましょう。小問(3)とかで出てくることが稀にあります。

CB3−5について                                不当廉売で処理する場合には要件がはっきりしているので機械的に処理できるでしょうが、私的独占あるいは差別対価で勝負する場合には「原価割れ」を求めるか、どの要件の問題として求めるか(私的独占なら「排除」?、差別対価なら????)この辺りは事前に整理しておいたほうが安全でしょう。試験的には狙い目の一つです。

6/1 追加 (最後のQについて追加の説明をお願いします)

4−5

ここの設問は、ほとんどどこかの記述を探すだけなので、そのまま抜き出せば足りるでしょう。一点、Q10について、事後的に違反状態が成立したときは「取得」ではなく「保有」の方で違反にすればよいのは確かですが、一度違反なしとされた結合を事後的に違反とするためには追加の結合事実がないと苦しいでしょうね。単に結合企業が大きく成長して単独での違反が可能になった、一部の事業者が市場からいなくなって協調しやすくなった、ということで事後的に問題解消措置を求めるのは明らかに独禁法の範疇を超えている「統制法」の発想になってしまいます。

4−6

あまり設問の作り方がよくない感じもしますが、事案としては大事な要素が盛り込まれています。供給余力の程度の議論は競争状況を分析する上では重要な視点です。こういった競争に関連する要素に気づくかどうかは、たくさんの事例に当たって「なれる」しかありません。

4−7

珍しい垂直型ですが、排除型私的独占っぽいシナリオで競争分析するやつですね。ガイドラインは一度目を通してください。

4−8

Q1はもう一つ設問(「または・・・」)がありませんでしたか?

2−1

Q3は授業で説明したように、NTT東日本事件で排除型も「東宝・スバル」的理解になりました。

2−2

Q5 すみません、「事業者団体性」と解答されたことの説明をお願いします。

再販売価格維持の正当化について

ブランド価値の維持は正当化理由になるか? あるブランドが「高価格戦略」をとっていた場合に、廉売はブランド価値の毀損となるのでこれを阻止するために再販売価格維持をメーカーはしたいだろう。しかし、これは正当化にならないと考えるのが一般である。それだけ、価格は競争要素として「絶対的地位」にある。一方、優越的地位濫用のケースでは「ビジネスモデルの維持」のための「特定の行為の要求」はたとえ要求される側に不利益な部分があっても「濫用」とは評価されない。それが維持できなければビジネス自体が成り立たないと考えるからだ。両者には競争への影響の仕方の違いもあるが、果たしてこの違いは納得できるだろか? 7/19