再び「楽天vs楽天ユニオン」

今年の前半、「楽天の送料無料」問題が何度となく報じられ、筆者もいくつかの論考を公表してきた(「『送料無料』をめぐる攻防:楽天vs楽天ユニオン」等参照)が、以前から燻っていた別の話が大きく報じられた。違約金等に係る楽天側による一方的な規約変更が独占禁止法に違反するのではないかとして、楽天ユニオンが公正取引委員会に対して排除措置命令を出すように要請した、というのである。

報道によれば、ユニオン側が問題視したのは、2016年導入の違反点数制度であり、これは「ブランドの模造品の出品や商標権の侵害など、1年間の違反行為を点数で加算し、一定レベルに達すると違約金、営業停止などの処分がある」制度である、とのことだ。「通販サイトの違反行為を減らす目的だが、最大300万円の違約金」となり、ユニオン側はこれまでに「商品画像の登録ミスでも違反点数が加算される。不利益な規約変更を繰り返してきた」と主張している(日本経済新聞2020年8月18日ウェブ記事より)。

楽天ユニオンはほかにも

・「アフィリエイト」と呼ばれる成果報酬型のネット広告の手数料

・決済システムの利用手数料の過去の引き上げ

についても、公正取引委員会に排除措置命令を求めたとのことだ(同記事)。

楽天ユニオン代表の勝又勇輝氏とは今年2月、日テレBSの「深層NEWS」でご一緒したが、その際、「楽天は送料無料以外にも色々問題がある。このあたりは今後争っていきたい」といった趣旨のことを述べていたのを覚えている。コロナ禍で準備や調整に時間がかかったのかもしれない。半年経ってのアクションである。

ユニオン側の理屈は明快である。優越的地位に立つ楽天が立たれる店舗側に対して、断れないのを前提に店舗に不利益となる規約の改定を押し付けた、というものだ。「甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合」(おおよそ「依存度が高い場合」といってよかろう)に「取引の一方の当事者(甲)が他方の当事者(乙)に対し,取引上の地位が優越している」と認定できる(公正取引委員会の指針、「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」)とするならば、その認定には支障はあるまい。後はそのような不利益を一方的に押し付けている(濫用)かどうか、だ。

楽天側からすれば、依存度が高いということはそれだけ、魅力的なサービス(プラットフォーム)を形成しているからであって、魅力的な企業であればあるほど違反になり易くなるというのであれば、それこそ競争原理に反していて不当だ、ということになる。魅力的なサービスを提供し続けている企業が、より市場で競争優位を実現するために契約スキームを見直すことはむしろ「成長志向の店舗」からすればウェルカムではないか、という反論がありそうだ。事実、一定数楽天の提案に賛同している小売店舗もあるという。楽天側には楽天市場で出店することがふさわしくない(ユーザーにとって好ましくない)店舗に対するサンクションを強めることで、市場での競争力を高めたいというマーケティング志向の規約の見直しという意識が強いのかもしれない。

これまでに楽天とユニオンの間にどのようなやりとりがなされたかの詳細な情報を筆者は知らないので、簡単には結論を出すことはできないが、優越的地位濫用規制の性格からして、ユニオン側有利の見立てが自然な気がする。

しかし、楽天側は納得しないだろう。顧客志向を貫いて罰せられるのであれば、それはビジネス自体の否定ではないか、と。そこがプラットフォーム・ビジネスの特徴であるマッチング・ビジネスの悩ましさだ。優越的地位を利用した単なる「搾取」とは異なり、競争促進的な側面が一方の面の市場で認められる(主張される)場合があるからだ。

同じ問題はコンビニのフランチャイズ契約でも指摘できる。大阪のあるコンビニでをめぐっては、契約解除による店舗引渡しに応じる、応じないで紛争になっている。その店舗は本部の要請に逆らって時短を強行した店舗として大きく報じられたが、本部側はそれが理由ではなく、その店舗には顧客から様々なクレームが寄せられていることが理由だと主張している。何れにしても本部の意向に反していることが理由であり、本部からすれば顧客の利益にそぐわない店舗とは契約に値しないということだろう。ただ時短によって顧客の利益がどれだけ奪われるかは、最近の調査ではそれほどのインパクトはない、との見方も優勢のようで、公正取引委員会も時短については店舗側寄りのスタンスをとっていると考えられるから、本部もそれを理由にしにくいのであろう。コンビニも、営業モデルの提供を店舗側にして、そこと顧客をマッチングさせるビジネスと捉えるならば、ある意味プラット・フォーマーだ。ただ、実店舗の場合「デジタル」の要素が少ない、あるいは自由度が低いというだけの話である。

仮に問題となるプラット・フォーマーの行動が、店舗には不利益だが顧客には利益になる、あるいは顧客をめぐる市場においては競争促進的な要素が強いと認定された場合、優越的地位濫用規制の適用はどうなるのであろうか。「契約の自由」の論理からすれば許される行動を制約する法はどうあるべきで、どう適用されるべきなのか。カルテルや談合が一般論として競争制限的で独占禁止法違反であるという理解はストレートに導けても、優越的地位濫用規制はそうはいかない。

公正取引委員会は次の点に注目するだろう。

第一に、このような楽天の行為によって楽天の市場における競争上の地位が強まるかどうかである。特定の取引関係を超えて市場全体に影響を及ぼす場合、独占禁止法は登場し易くなる。

第二に、顧客の利益に「本当に」結び付くものなのか、あるいは取引の公正さの向上に結び付くかどうか、ということである。そこが崩されると楽天側の正当性が怪しくなる。

第三に、規約の変更に際し、どの程度両者で真摯な交渉が持たれたのか、そして楽天側が然るべき譲歩案を出したのだろうか、ということである。そして店舗側に対するサンクションとして恣意性が働かないか、あるいは過剰なものになっていないか、ということである。「濫用」といわれないためには、相手方の利益への配慮が必要だからである。

裏を返せば、楽天側がデフェンスするためにはこの辺りのポイントに注力すべきだろう、ということになる。「依存することが悪く、依存させることは悪くはない」という論理はこの規制では通用しないと思った方がよい。

「契約の自由」に法はどこまで介入するべきか、あるいはしてよいか。この古くて新しい問題の歴史は、資本主義制度の歴史そのものといってよい。