15日の毎日新聞の記事より。
セブン&アイ・ホールディングス(HD)は15日、米石油精製大手マラソン・ペトロリアム傘下のコンビニエンスストア運営会社「スピードウエー」の買収手続きを完了したと発表した。これに対し米連邦取引委員会(FTC)は、買収は独占禁止法(反トラスト法)違反の疑いが強いとの声明を発表。今後のFTCの対応次第では買収の修正や撤回を求められる可能性もある。
これだけ見ると、FTCの調査で懸念が示されたのにセブンが買収を強行した「蛮行」のような印象を受けるが、果たしてそうなのだろうか。毎日新聞の記事は、「セブン&アイHDの発表直後、FTCは民主党系委員2人の連名」で、「今回の買収案件は反トラスト法に違反し、全米の多くの地域のガソリン販売市場で重大な競争上の懸念を引き起こす恐れがあ」り、「FTCの調査中に買収を完了するのは異例で、非常に困惑している」と表明したと紹介している。そして記事は「今回の買収案件を巡っては、独禁法違反との見解で委員4人が一致したものの、対処方針が決まっていない模様だ」と続けている。5人の委員で構成されるFTCだが、現在、民主党系2、共和党系2で、空席が1となっているとのことだ。
一方、産経新聞の記事では「買収条件でFTCと合意する前にセブン側が一方的に買収を完了させた」と民主党系の委員が批判しているとしつつ、「これに対し、共和党系の2委員も声明で『委員長代理らの発言は当事者を拘束しない』と指摘し、買収自体は容認する構えだ」と続ける。
上記の記事だけではなんともいえないが、委員の過半が違反と認識しているのに一方的に買収を強行したのはコンプライアンス上大胆としかいいようがないが、対処方針の違いで「2対2」で分かれたが故にそうしたということであればセブン側は法的戦略として何らかの勝機を見出したということなのか。
冒頭の毎日新聞の記事では「バイデン大統領はFTC委員にコロンビア大学法科大学院のリナ・カーン准教授を指名しており、上院の承認を経て空席が解消された後に、FTCとしての正式な結論を出す」ようだと締め括っている。「Amazon’s Antitrust Paradox」という現在、反トラスト法の分野で最もよく知られている論文の執筆者であるカーン氏は、効率性一辺倒だった反トラスト法の政策目的の多様化というトレンドを作り上げた立役者の一人であり、まだ30代前半の若き俊英だ。そういう事情も意識してセブン側が急いだのかもしれない。さて、セブンの買収劇はどのような歴史を残すことになるのだろうか。