大阪万博にみる「契約の自由」のリスク

当然の話であるが、ある一方当事者が契約の締結を望んでいても、他の一方当事者がその条件を飲まない限り契約は成立しない。それは官公需であっても同様である。公共契約において競争入札が用いられた場合でも、条件をみて誰も手を挙げなければそもそも入札にならないし、手を挙げた業者がいても予定価格に合っていなければ落札には至らない。

大阪万博では建設工事を請け負う業者が決まらず、その工期を考えると開催までに間に合うか不透明であると報じられている。

国内組において発注者は、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会(以下、「万博協会」)に加え、参加自治体、参加企業等である。協会発注案件については、初回入札で落札者が決まらなかった10件について予定価格を引き上げるなどして再度入札を行い、8月上旬になって契約者が決まったことで、全件の工事が契約に至ったとのことである。相当の金額上振れになったとのことだが、それに加え、その分工期が窮屈になったのではないかと危惧される。

国内組のうち、民間のものは民間が個別に建設業者と契約するのでその実態はわからないが、8月末の政府の資料(「大阪・関西万博におけるパビリオン建設の状況」(令和5年8月31日、内閣官房・経済産業省))では「迎賓館、催事場等」「日本政府館」と共に「民間パビリオン/自治体館」についても「建設事業者は決定」とされている。「資材価格高騰・人手不足の中、内外装・展示を着実に進める必要」との留意事項が付けられている。

現在、一番の懸念は海外パビリオンである。先日、日本建設業協会の宮本洋一会長は記者会見で「発注者からきちんとした設計図、適正な金額や工期が示されてはじめて受注の検討に入るが、必要な情報の提示がないため、建設会社は、受注の可否の検討に至っていない」と発言した(2023年9月22日NHKニュースより)。その上で、「タイプAであれXであれ、早急に作るものを決めたうえで精度の高い設計と予算の裏付けのある発注を1日も早くしてもらいたい。」(同上)とも述べている。

「タイプA」のパビリオンとは、参加国みずからが費用を負担し、各々独自のデザインで建設するパビリオンである。「住宅にたとえると、「注文住宅」のイメージ」で「およそ50カ国・地域がタイプAを望んでいる」とされる。「それぞれがデザインの独自性を発揮し、思い思いの魅力的なパビリオンをつくる」(小田切隆氏のコラムより)ことができる。

一方、「タイプX」のパビリオンとは、「いわば「建売住宅」で、日本側が代理で建設業界に対して発注し、作ったものを各国に引き渡すというもの」で「費用は各国の負担となる」(同上)。「協会が建設する基本構造に内装や外装等は自国で行う建築方式」(前掲政府資料)で、このやり方だと工事のスピードを早めることができることから、時間的制約の厳しい現状を打開する有効な策として考えられており、タイプAを希望する国にタイプXへの変更を依頼しているようだ。しかし、各国の反応は鈍い。

ちなみに残りの100カ国程度は、いわゆる「賃貸形式」での参加組である。日本側が建物を建設し、参加する国が単独、共同でこれを使用し、その対価として賃料を払う形で参加するタイプである(タイプB、タイプCと呼ばれるそうだ)。これらについては工期云々の問題は指摘されていない。

タイプXへの移行を依頼するということは、上の例えでいえば「注文住宅」の購入を希望する買い手に対して売り手から時間がないので「建売住宅」でお願いしますということだ。買い手が「いや開催日に間に合わなくてもいいです」と答えたらどうするつもりなのであろうか。どうしても早期に販売を決めたい売り手は相手に有利な条件を出すしかない。AであろうとXであろうと、残された方法は値段を下げるぐらいしかなくなってしまう。時間がなくなればますます何かを簡素化、簡略化しなければならないが、そうすればするほど、手の込んだタイプAのパビリオンを求める国にとっては受け入れられないものとなる。買い手にどういう形で契約をするかの自由を与えているのだから、うまくいかなかったときに「より困る」方が妥協する幅が大きくなる。建設業者もまた、どういう形で契約をするかの自由を与えられているのであるから、それは契約のリスクを気にするはずである。工期も厳しい、いわゆる2024年問題もある。働き方が大事だ、魅力ある産業の形成をという時代の流れに逆行する。無理な工期の設定は建設事故を招く。つい最近も大きな事故があったばかりだ。業界が自ら首を絞めることはしないだろう。

万博協会は各ステークホルダーの調整を十分にこなせているのであろうか。「必要な情報の提示がないため、建設会社は、受注の可否の検討に至っていない」という上記の宮本会長の発言通りならば、なぜこのように追い詰められる事態に至ったのだろうか。タイプAを希望する国(が選んだ業者)と国内の建設会社との調整が進まないのであれば、そこは万博協会の調整能力の問題である。契約の自由がある建設業者からすればその前提が揃うまで待つのは当然であり、そこは自由市場に委ねた結果に過ぎない。

これは主催者側の問題である。事態が何らかの形で収拾できる限り、最後は万博がうまくいかなかったときに「一番困る誰か」が尻拭いすることになるのだろう。しかし一連の報道を見ていると、関係者が各々「自分は悪くない」といい始めたようにどうも見えてしまう。