一括発注の罠:医薬品談合事件

先月28日の産経新聞のニュース(「医薬卸、一括受注悪用か 談合疑い4社、シェア9割 公取委「生活影響も」)より。公正取引委員会は現在、独占禁止法違反の疑いで、医薬品卸4社を強制調査した。検察への刑事告発を視野に入れた調査とのことである。

全国57病院を運営する独立行政法人地域医療機能推進機構(東京)が発注する医薬品の入札をめぐる医薬品卸売大手4社による談合疑惑で、過去3回の入札で落札したのは、全てこの4社だったことが28日、分かった。再編が進んだ医薬品卸売業界で巨大化した“4強”が医療費抑制のための一括発注を逆に悪用し、数年前から利益確保を図っていた疑いが浮上している。

記事によれば、「同機構では、地方病院の経営効率化が課題とされ、複数病院で医薬品を発注する場合は「共同入札」として、同機構が2年に1回、一括発注する方式が採られた」が、その理由は「一括でやった方がコストカットできる」からだという。しかし、「全国規模の納入に対応できるのは実質的に4社に限られ」る。記事では「巨額に上る医薬品を一括受注できる上、同機構は公的機関のため民間と比べて卸値を買いたたかれる懸念もない」と指摘するが、これは競争入札になれば、予定価格は高めに設定されるということを意味するものといえる。こうした事情が受注調整を容易にしたとみられている。

筆者はいくつかの発注機関で入札監視委員会や契約監視委員会の委員(長)を務めており(務めてきた)、そこでこの一括発注、共同購入の入札状況を数多く見聞きしてきたし、そのメリット、デメリットについて何度も討議をしてきた。

従前バラバラに発注してきたものを一括で、あるいは共同で発注する。そうすれば単価あたりの費用が下がるはずだ。その直感は正しい。しかし、業者が取り扱える量に限界がある。それが数社に限定されるならば談合し易い環境となり、その誘引が強くなる。競争的であれば確かに「より安く」調達できるのかもしれないが、談合されれば「より高く」なってしまう。談合されてもより安くなるような「一括発注、共同購入の効率性」が存在しなければ事態はただの悪化となる。このケースは全国規模の納入に対応できる業者が絞り込まれてしまい、談合を誘発したという「裏目に出た」ものである。

共同発注、共同購入のタイプとして、複数の種類の物品を一括発注するというものもある。例えば、文房具などを種別ごとにバラバラに発注するのではなく、いくつかの種類のものを併せて購入しようとすれば、確かに運送費等の観点から直感的には安くなるような気がするが、必ずしもそうはいかないことがある。その結果、一者応札になることがあるからだ。とりわけ地方自治体の発注のように地元調達に拘れば競争業者の数が相当に絞られることになるので、その傾向はますます強まる。

「一括発注、共同購入」は独立行政法人の調達改善計画の定番だ。しかし、それによって競争状況がどうなるかといった考察も同時に必要になるものである。確かに入札談合は法令違反そのものであり、それを摘発するのは各発注機関の役割ではない。しかし、自らの調達改善への取り組みが違反を誘発するのであるならば、その責任の一端はやはり各発注機関にあるといわざるを得ない。

一方で、発注機関が「応札業者数」「応札可能業者数」といった表面的な競争性に拘り、却って効率的、合理的な調達を自ら妨げる結果となる場合もあり得る。競争入札において仕様や入札参加資格の設定を「最低限」にするべきだという主張は、ほぼ暴論である。正しくは「合理的な仕様や入札参加資格を設定すべき」か、あるいは「競争性低下のデメリットとの比較でその妥当性を考えるべき」、というべきである。

「競争性」は軽視してもいけないし、拘泥してもいけない。公共契約をめぐる競争論は、一般に思われているほど単純ではない。

1円落札の問題性:東京五輪空手用マット

東京五輪の空手用マットの競争入札で1円落札が発生した。以下、21日のNHKのニュースより(「東京五輪空手用マット1円で落札:一般には500万円程度」)。発注者は大会組織委員会である。」

組織委員会によりますと、東京オリンピックで空手が行われる日本武道館や練習会場で使用するマットを調達するため、ことし7月に一般競争入札を実施したところ4つの業者が参加し、このうち2社が1円で応札しました。

調達にかけたマットは一般的には全体でおよそ500万円程度するということですが、組織委員会は9月に日本武道館で行われた空手のテスト大会で2社の製品を使い、製品の品質を確認したり選手に意見を聞いたりしたうえで、先月1日に埼玉県の業者が1円で落札したということです。

1円入札の動機は、大抵、(口コミを含む)評判のため、名誉のため、というものである。簡単に言えば、1円で落とすメリットが当該商品の価格以上にあるから1円で入札するのである。だから場合によっては「お金を払ってでもよいから受注したい」ということもあるだろう。一定の質が担保されているのであれば、発注者にとって不都合はなかろう。1円でも「高い」場合があるのだ。問題の本質は安すぎることではなく、1円以上での入札を求めることにあるともいえる。

独禁法上の不当廉売規制に抵触するか。これだけではならないだろう。費用割れの部分だけをみればそのように見えるが、そもそもこのような単発の入札での廉売では、どこの市場でどのような競争制限になるか不明である。同種の入札で似たような傾向が続くのであれば、多少の考慮の余地が生まれるだろうが、独禁法が私的独占の予防規定として不当廉売規制を位置付けていることにどう整合的に結び付けるのか、議論しなければならない点は多くある。公共契約では公共工事で不当廉売の警告事案がいくつかあるが、出血競争のようなタイプの廉売に規制の網をかけるのには疑問がある。

空手用マットの事案が、ビジネス上のメリットを考えての「合理的」な価格だというのであれば、出発点である原価割れという要件充足すら怪しくなる。それが形式的に満たされたと考えても、廉売のメリットが「受注によって儲かる」という点にあるのなら、それは短期的に損してでも競争相手を排除するというシナリオとは程遠い。

上記報道によれば「調達にかけたマットは一般的には全体でおよそ500万円程度する」が、「組織委員会は9月に日本武道館で行われた空手のテスト大会で2社の製品を使い、製品の品質を確認したり選手に意見を聞いたりしたうえで、先月1日に埼玉県の業者が1円で落札した」とのことである。これが低入札価格調査のような機能を果たしているといえるのだろう。ただ仮に1円入札した業者が1者だったときに、組織委員会はこのようなテストをしたのだろうか。

公共契約においては同額入札の場合はくじによる抽選となる。入札公告に「同額の場合はテストを行う」と書かれていたのであろうか。

高崎市官製談合事件:競争がある場合とない場合の違い

官製談合防止法違反のニュースを連日のように見聞きする。今日(19日)もまたこんな記事を目にした(「官製談合容疑で市職員逮捕 高崎芸術劇場入札で館長も」(産経新聞2019年11月19日))。

群馬県高崎市が発注した備品購入の指名競争入札で入札予定価格を漏らしたなどとして、県警捜査2課は18日、官製談合防止法違反などの疑いで高崎市総務部企画調整課付課長佐藤育男容疑者(50)=高崎市大八木町=と「ラジオ高崎」役員で高崎芸術劇場の館長菅田明則容疑者(66)=同県安中市安中、高崎市にある阿久沢電機社長阿久沢茂容疑者(68)=高崎市江木町=の3人を逮捕した。

具体的な容疑は、「3人が共謀し今年1月ごろ、高崎市が発注した芸術劇場の備品購入の指名競争入札で、都市整備部都市集客施設整備室長だった佐藤容疑者が入札予定価格を菅田容疑者に漏らし、1月24日に実施された指名競争入札で阿久沢容疑者の会社に落札させた」とのことである。発注担当者から予定価格を聞いた館長が社長にさらに伝えたという。この記事によれば漏洩された予定価格は6264万円で、落札価格は5680万円だという。

少し気を付けなければならない点がある。それは6264万円という予定価格が税込価格で落札価格は税抜きで5680万円だということである。(本稿執筆時点での)産経の記事はこの違いを明示していないが、読売の記事(「高崎芸術劇場館長ら、官製談合の疑いで逮捕」)ではこの違いを踏まえて、落札金額を6134万円と記載している。

これは実は重要な情報で、5680万円が税抜の額ならば税込の額は予定価格に非常に近くなる。仮に税込だとするならば落札率でいうと90%ぐらいになる。予定価格の漏洩で落札率がこの程度だと(公共工事なら)下限価格を当てさせるための予定価格の漏洩ということが疑われる。多くの発注者は、予定価格に一定の計算式を当てはめて下限価格を導いている。だから予定価格の漏洩によって下限価格(付近)での落札が可能になる。沼津市の官製談合防止法違反事件はそういうケースだった(「沼津・官製談合、市職員が元上司らから接待 飲食やゴルフ」(静岡新聞2019年10月21日))。しかし(請負契約でない)備品の購入のケースでは下限価格は定めない。

上限価格である予定価格を漏洩し予定価格付近で落札させるのは「古典的」な不正である。それも指名競争が採用されている。この一社が受注予定者であることが前提になっているか、一者応札が予想されるケースかのいずれかである疑いが強い。何故ならば競争があれば予定価格付近での落札は考えにくいからである。前者ならば協力業者がいるということだ。もちろん、予定価格が低すぎて競争が成り立たないようなケースもあるが、芸術劇場の備品購入においてそのような特殊な状況があるのだろうか。競争が激しい場合、予定価格の漏洩は下限価格での受注を目指す業者が「抜け駆け」的に発注者と癒着する不正が多くなる。

「税込」「税抜」の違いは「官製談合」という強烈な言葉の前であまりたいしたことがないような情報に見えるが、事案の特徴を見極める上では極めて重要な情報なのである。

ただ、発注者側の協力があれば「下限価格付近での入札談合」という「新手」もあり得る、ということには多少の注意を払っておいてもよいだろう。下限価格に多くの業者の応札価格を集中させ「競争がある」かのような体裁を作る、という手口である。下限価格が高めに設定されていれば、これは可能である。

関西電力発注の原発関連建設工事と独占禁止法

関西電力役員の金品受領問題への追及の声が止まない。事態の収束を図って行った先週の同社会長、社長による記者会見も、収拾がつくどころか逆に炎上させてしまった感さえある。どこか他人事のような、開き直りの態度に多くの視聴者、読者は呆気にとられたに違いない。

原子力発電所が存在する地元高浜町の元助役と、関係する工事の発注元である関西電力幹部との金品のやり取りは、元助役が顧問を務めていたとされる地元建設会社の存在が指摘されることで、工事費用の私的な循環として語られるようになった。

独占禁止法研究者である筆者は、元助役が関係するこの建設会社への関西電力による発注が、「仕組まれた競争制限」の結果であるかどうかに関心がある。情報が限られた中ではあるが、独占禁止法違反の成否に関する論点を提示しておこう。

民間発注における競争制限行為と発注者の責任

民間企業であれば、、調達の相手方を競争的に探すかそうでないかは、本来は、その自由の範疇である。会計法や地方自治法が公的発注機関に競争入札の採用を「法的に」要請しているが、民間企業の場合、(WTO政府調達協定の対象企業のような例外的なケースを除き)そういった法的要請はない。しかし、電力の卸売、小売が自由化されたとはいえ、地域の電力供給において、独占的な地位を有し、電気利用者が負担する電気料金によって事業が成り立っている電力会社に対しては、公正な競争による調達が強く求められてきた。

このような要請を受け、会社として、公正な競争による調達にコミットしている場合には、会社が、公共調達に準じた競争的発注を行うことを自ら義務付けているとみることができよう。実際、電力会社の多くは、行動規範などで「公正な競争による調達」の方針を掲げている。

そのような電力会社の調達に関して、受注希望者間で競争制限の合意が認められれば、独占禁止法違反として業者は処罰、処分の対象となる。さらに、電力会社側が発注者として競争制限に関与していた場合にはどうなるか。

関西電力発注工事での談合事件での発注者への「申し入れ」

関西電力の調達に関しては、5年前、架空送電工事の工事業者及び地中送電工事の工事業者が、関西電力発注のこれら工事の発注案件について、価格の低落防止及び機会の均等化を図るために受注調整を行なっていたとして、公正取引委員会が排除措置命令、課徴金納付命令を行なっている(「関西電力株式会社が発注する架空送電工事の工事業者及び地中送電工事の工事業者に対する排除措置命令、課徴金納付命令等について」(平成26年1月31日)(公正取引委員会ウェッブサイトより)。

これだけであれば(民間企業発注工事の)ただの談合事件であるが、注目すべきは発注者である関西電力側が受注業者側の受注調整に関与していた、という事実が公正取引委員会によって認められていたという点である。

(1) 関西電力は、架空送電工事及び地中送電工事を発注するに当たり、指名競争見積等の参加者を一堂に集めて現場説明会を行っていたところ、指名競争見積等に参加した工事業者の営業担当者は、現場説明会終了後に引き続いて、指名競争見積等の参加者間において受注予定者を決定する話合いや当該話合いの開催に当たっての日程調整等の話合いをしていた。

(2) 関西電力の設計担当者のうち、当該現場説明会の場等において、前記(1)の営業担当者の求めに応じ、契約締結の目安となる価格を算出する基となる「予算価格」と称する設計金額又はそのおおむねの金額(以下「予算価格等」という。)を、非公表情報であるにもかかわらず教示していた者が多数みられた。

(3) 関西電力の設計担当者の中には、前記(1)の営業担当者に対し、予算価格が記載された発注予定工事件名の一覧表を、非公表情報であるにもかかわらず提供していた者がいた。

(4) 関西電力の購買担当者の中には、地中送電工事の発注に係る指名競争見積等の参加者の選定に当たり、各工事件名における参加者の組合せについて事前に特定の工事業者に相談していた者がいた。

(5) 指名競争見積等の参加者は、関西電力の設計担当者から教示された予算価格等を、受注予定者が提示する見積価格を定める際の参考にするなどしていた。

(6) 受注予定者を決定する話合いを行っていた者の中には関西電力の退職者が29名おり、このうち少なくとも14名は、関西電力の設計担当者から予算価格等の教示を受けていた。

これが公共工事であれば明らかな官製談合防止法違反である。公正取引委員会はこうした事実を問題視し、関西電力に再発防止策を講じ、発注制度の競争性を改善してその効果を検証することを求める異例の「申し入れ」を行なっている(以上、上記公正取引委員会ウェブサイトより)。関西電力は、その申し入れの翌月にプレスリリースしその検証結果と再発防止策を公表している(「架空送電工事および地中送電工事の設計・発注業務における調査結果および再発防止対策について」(平成26年2月4日、関西電力)。

高浜原発関連工事発注と独占禁止法の適用

今問題になっている高浜原発関連工事についてはどうだろうか。情報があまりにも断片的で、限定的であるので、推測の域を超えないが、考える道筋はいくつか提示できる。

建設会社が関西電力から工事を受注するルート(契約手続)にはいくつかある。大きく分けて、特命発注(公共契約でいえば特命随意契約)によって直接受注するルート、そして何らかの形で他社との競争を通じて受注に至るルート(公共契約でいえば競争入札や企画競争といわれるもの)がある。報道では「特命発注」の方が注目を浴びているが、最初から発注者自身が競争要素を排しているので「不適切」という批判はあっても独占禁止法違反の射程からは遠ざかるように思える。しかし、本来であれば競争的に契約者を選定すべきところ、あるいは従来競争的に契約者を選定していたところ、受注業者が発注業者に圧力をかけたり、虚偽の情報を吹き込んだり、あるいは癒着したりして、特定業者への特命発注を実現、継続させるようなことがあれば、それは私的独占規制や取引妨害規制の射程に入ってくるように見える(公共発注においては、前者として東京都の医療用ベッド発注に係る競争業者排除事件であるパラマウントベッド事件があり、後者としては農水省東北農政局発注の公共工事をめぐる発注者側からの不正な協力による受注が問題となったフジタ事件がある)。

競争入札のような競争的な手続が採用されていた中で特定業者への人為的、恣意的な受発注が仕組まれていたのであれば、それは談合行為として不当な取引制限規制の対象となる。仮にこれが刑事事件になり発注者側の関与があったというのであれば、関与した発注者側の人間も共犯として刑事罰の対象となり得る(過去に、発注者が不当な取引制限の共犯の刑事責任を問われた事例として、1995年の下水道事業団発注の電気設備工事をめぐる談合事件がある。)。

では発注の実態はどうなのだろうか。平成30年9月11日作成の「調査委員会報告書」によれば、平成26年9月1日から平成29年3月31日までの間、元助役が顧問を務めていた当該企業が関西電力から受注したのは原子力事業本部分については22件、うち12件が競争的手法によるもの、10件が特命発注となっており、京都支社分については8件ありいずれも特命発注となっている。この内、特命発注分についてはいずれも「工事遂行にあたっての地元精通度の高さ」「工事現場との関係での立地条件のよさ」などといった理由が挙げられている。競争入札が原則化されている公共工事の場合、それだけの理由で随意契約が正当化されることは滅多にない、ということはここで指摘しておくべきだろう。

競争的な手法についてはどうか。上記報告書によれば関西電力の契約発注に関しては指名競争を原則とし、原子力関連の発注では若狭地域における取引先選定(指名)にあたって、地域共生、地域振興の観点から地元企業を優先しているとされている。指名競争においては最低価格自動落札方式ではなく、最安値の見積金額を提出した業者との間で、関西電力側が算出した査定価格に近づけるように交渉し、合意に至った場合には契約となるとのことである。指名の段階で優先される地元業者の候補(高浜町内における関西電力の土木工事の登録取引先)は二者だが、そのうち一者は「浚渫等の海周りの工事を得意としており、受注できる工事が限定的である」とし対象外となっている。元助役が顧問をしていた企業は「土木工事全般に対応する能力があ」り、「多数の元請受注実績をもっている」ことを理由として取引先選定の対象となっている。

ここに競争入札のあり方としていくつかの疑問が生じる。指名にあたって地域共生、地域振興の観点から地元企業を優先する方針があり、その方針が他の応札業者にも知られているのであれば、それは唯一の地元指名業者である当該企業が競争入札における「本命」であるというメッセージとなり得、他の業者が「忖度した」応札行動をとりかねない。ここで暗黙の了解型の不当な取引制限のシナリオは否定できない。そもそも地元企業でない指名企業とはどのような企業なのか、その企業の応札行動はいかなるものだったか、辞退率はどのくらいか、そういった情報を、関西電力側が明らにしていない以上、この唯一の地元業者ありきの競争入札だったといわれても、致し方あるまい。

報告書によれば、関西電力側は「発電所情報や、実施の見通しを得た工事について、工事物量や工事概算額等を自部門で算出し、または元請会社から聞き取るなどして、工事概要を取り纏め」、元助役との面談に臨んだという。地元自治体の幹部であれば、何らかの面談の必要は当然あるが、確定ではない「概算額」であっても他の企業が知らない工事に係る内部情報である以上、案件によってはその後の競争状況に影響がないとはいえない。また、立場上内部情報にアクセスできるというメッセージ自体、暗黙のうちに受注予定者が誰であるかを認識させる機能を果たすといえなくもない。この場合も公共契約であれば、法令上アウトといわれても文句はいえないだろう。独占禁止法についていえば、それは競争制限行為を助長する行為といわれかねない。

 

関西電力の調達方針との関係

関西電力のホームページ(「関西電力 調達基本方針~CSRを踏まえた調達活動~」)には「調達活動の行動基準」が掲げられており、そこでは、「透明性の高い開かれた取引」「コンプライアンスの徹底」が謳われている。そして「取引先のみなさまへのお願い」として「透明性の高い開かれた取引」の項目中に「競争制限的行為の禁止」の記載があり、「コンプライアンスの徹底」の項目中に「全ての関係法令およびそれらの精神の遵守、教育の実施」「不正の防止、撤廃」の記載がある。これは「資材調達」に係る方針として掲げられたものだが、当然、工事一般についても当てはまるものである。5年前の公正取引委員会からの申し入れを考えたらなおさらである。

「資材調達情報」をさらに見ていくと、「2019年度主要調達計画」という項目で、次の記述が目に入った。

また、計画が未確定のものや用地事情等により掲載していないものがあります。

「用地事情」とはどういうことだろうか。これは原子力発電所の立地のことをいうのだろうか。確かにこの項目中、「原子力機材」の欄はない(参考までに中国電力の調達情報には「原子力機器」の項目が設けられており情報が公開されている)。そういった点から、関西電力は調達の行動基準を定めておきながら「用地事情」などといって原子力発電所関連工事を特別扱いしており、会社として、調達手続の例外を容認しているのではないか、という疑念がわく。この会社の対応は上記でみた独占禁止法上の諸々の疑問にリンクしてくる。こうした疑念を解くべく関西電力はどう答えるか。

取引先に透明性とコンプライアンスの徹底をお願いするならば、まず自らを律するべきだ。何よりも関連する情報の透明化を求めたい。第三者委員会が新規に立ち上げられ、さらなる検証が行われるというが、上記の問題にまで踏み込めるのだろうか。問題はもはや会社設置の機関の射程を超えたレベルにまで達しているのではなかろうか。

 

独占禁止法違反が成立する場合の「犯罪の実体」

不当な取引制限の疑いがあるという前提で話を進めると、独占禁止法違反としての制裁や処罰の必要性に関連して注目すべきは、関西電力のケースは「発注者側への多額の金品の還流」が問題になった事案だということである。その「還流」が、関西電力からの受注によって事業者側が得た超過利潤の一部であることは容易に想像できる。

カルテル、談合等の独占禁止法違反が事業者に、常に不当な利益をもたらしているかといえば、そうではない。実際に、多くの違反で、「原材料価格上昇を転嫁しただけ」とか「ダンピングによる共倒れ防止のため」などという正当化の主張が行われてきた。そうした中では、発注者側に還流するほどの超過利潤が生じている競争制限行為は極めて特異である。仮に、事業者側の独占禁止法違反や発注者側の共犯が成立する場合には、行政処分では対処しきれない、まさに「犯罪の実体」を備えた行為と評価される余地もある。

所管官庁、公正取引委員会、そして検察当局がどう動くか、注目である。

青梅談合事件無罪判決を読む

9月20日、東京地方裁判所立川支部で、談合罪事件に対する無罪判決が下された(「青梅市談合、元建設業協会長に無罪判決 東京地裁立川支部」毎日新聞2019年9月20日)。

公共調達法制の研究者である筆者は、この事件で専門的見地からの意見書を裁判所に提出し、裁判所の決定により証人として公判廷で証言をした。

意見書作成に当たって、弁護人から事案の概要を聞いた時点で率直に思ったのは「そもそも何で談合罪として事件にしたのか」ということだった。

そもそも業者が「談合」したというが、同会長は被指名業者の一部にしか連絡しておらず、それ以外の業者の出方が全くわからない状況にあった。この程度の行為で刑法犯たる「談合」になるのが不思議で仕方がない。

同会長が指名業者数社に連絡したことは事実のようだ。しかし、それは、入札参加者間の受注希望を調整するためではなかった。条件の悪い、割に合わない案件を、入札不調で発注者の青梅市に迷惑がかかることを懸念した建設業協会会長の被告人が、責任感から受注したものだった。

こんなケースでは、談合罪を定める刑法96条の6第2項にいう「公正な価格を害」する目的を認める余地がないのではないかと考えていた。無罪判決が当然の事件のように思えた。結果は、予想通り、無罪であった。

積極的な受注意思がある業者同士がぶつかれば、価格面においては安さの競争になる。競争が激しければ激しいほど割りが合わなくなり、受注調整をするインセンティブが高まる。受注調整は一般的に予定価格付近への価格吊り上げとなり、「公正な価格」すなわち競争価格より高くなる。そこに、談合罪という犯罪の財産犯的な処罰価値がある。そういう「価格引き上げ」の要素がないのであれば、談合罪が成立する余地はない。

驚いたことに、筆者が、専門家証人として証言を求められたのが、同種工事の落札率の平均と本件工事の落札率を比較することで、本件工事の受注価格が「公正な価格」よりも高いことを証明することが可能かということであった。工事にはそれぞれ条件も特性もあり、同種工事の落札率を平均して「公正な価格」を算定するなどということは凡そ不可能であることを証言したのは言うまでもない。

判決では、類似工事といっても「様々な工事があり、難易度や採算性、さらには競り合いの状況もそれぞれ異なるものであるから、同種工事の落札率と比較し、本件工事の落札率がそれに比して高いからという結果だけで、被告人に公正な価格を害する目的があったと推認されるとはいえない」と一蹴されている。そもそも検察官がこんなところに論点を見出そうとしたこと自体、理解に苦しむといわざるを得ない。

この事件は検察側の完敗である。ここまで検察の主張が判決で否定れるのも珍しかろう。それも滅多に無罪判決など出ない談合罪の事件で、である。

何故、このような結末に至ったのか。

そもそもこの事件、公共契約や公共工事についての相応の理解があれば事件そのものになっていなかっただろう、ともいえそうだ。裁判所は学んだが、検察は学ばなかった。そういう評価ができる事件ではなかろうか。

この事件では、談合の事実を全面否認していた被告人が、80日ももの期間勾留され、心身ともに疲弊して、初公判では全面的に事実を認め、その後、弁護人が交代して無罪主張をするに至ったとのことだ。まさに、「人質司法」によって、有罪側に「堕ちる」寸前だったという。想像するだけでも恐ろしい。検察には、このような過ちを二度と起こさないよう反省してもらいたい。

芸能界と独禁法:公取委が自民党に見解を提示

公正取引委員会は27日午前に開かれた自民党の競争政策調査会で、芸能事務所がタレントとの間で交わす契約や取引について、どういったケースが独占禁止法上問題となり得るかをまとめて提示した。今回示した見解は、実質的な指針として業界への周知にも活用するという(朝日新聞2019年8月27日記事「芸能事務所の問題行為、公取委が例示 TV出演妨害など」)。

筆者は、まだその見解それ自体を詳細に見ていないが、上記の朝日新聞の記事によれば、以下の4つの「問題となり得る」例(芸能事務所の行為)が示されたという。

(1)移籍、独立をあきらめさせる

(2)契約を一方的に更新する

(3)正当な報酬を支払わない

(4)出演先や移籍先に圧力をかけて芸能活動を妨害する

「実際に独禁法に違反するかどうかは個別に判断されるが、(1)~(3)は独禁法の「優越的地位の乱用」、(4)は「取引妨害」などにあたるおそれがある。」とのことである。

独占禁止法という呼び名は、その正式名称である「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」からきているが、ここで列挙された、違反が疑われるケースはいずれも私的独占規制ではなく、不公正な取引方法規制の中にある違反類型である。そしてそこでいう公正競争阻害性といわれる効果要件(弊害要件)、すなわち競争秩序、取引秩序に与える悪影響の要件は、独占の弊害をもたらすとか、競争それ自体に対する悪影響を生じさせるとかいったものだけではなく、競争手段として不公正であったり、取引主体の独立性を否定するような意味での悪影響を問題にする、独占禁止法の中ではどちらかというと「裏街道」のような類型であることには多少の注意を払ってもよいだろう。

ジャニーズ事務所が「注意」を受けたのは、このうち(4)の例示に該当するものについてである。競争それ自体への悪影響ではなく、手段として不公正だというタイプの公正競争阻害性を問題にするとき、何を以て「手段が不公正」というかが問われることとなる。事務所から独立したタレントを使わないようにテレビ局などに圧力をかける行為を対象にしているとのことであるが、辞めたタレントではなく自分の事務所の現在の所属タレントを積極的に採用してもらうよう働きかけることは、通常の「営業活動」と説明することもできる。

公正取引委員会が平成30年度に不公正な取引方法規制違反として正式な処分を下したのは、実はたった一件であり、それは取引妨害規制違反であった(「平成30年度における独占禁止法違反事件の処理状況について」(公正取引委員会)参照)。農林水産省の東北農政局が発注した公共工事に係る入札不正事案であるが、ある業者が競争入札で勝てるよう、提出すべき技術提案について発注者から助言を受け、その内容について添削を受け、あるいは他の業者の技術評価点及び順位について情報の教示を受けた行為が、他の業者の取引を妨害したとされたケースである。これは明らかに刑法上の公契約関係競売入札妨害罪に該当する行為といえ、発注者側職員には官製談合防止法違反が成り立つような事案であった。問題となるやりとり自体が法に抵触する(犯罪にならなくとも競争入札のルールには違反する)ものであるということが、不公正手段であることの明白な説明になる。

では、芸能事務所の場合は、何が手段の不公正を基礎付けるのだろうか。芸能事務所が独占的な、支配的な地位を利用して競争全体を歪めるような行為をする場合は十分に不公正といえるだろうが、そうでない場合はどうなのだろうか。

随分と古いが、取引妨害のケースで「熊本魚市場事件」というものがある。これは生鮮食品の卸売市場において、競争業者のせり場の周囲に障壁を設置したという物理的妨害のケースであり、露骨な営業妨害のケースであった。仮に競争全体には影響を与えないとしても、確かに許しがたい妨害行為である。

さて、事務所を辞めたタレントを使わないように取引相手に要求する行為は、果たして許容範囲を超える妨害行為なのだろうか。自社のタレントを使うように要求しただけならばどうだろうか。これは企業にとっては自衛行為ともいえる。報道によれば、独占禁止法上違反疑いを生じさせる行為とは、「圧力をかけ」る行為である。要求と圧力はどう違うのか。結局、違反かどうかの線引きが「圧力」という言葉の意味をどう捉えるかによるのであれば、「圧力はダメだ」といったところで、それは大した指針にはならないだろう。移籍先が仮に大手事務所だったら結論は変わるだろうか。「見せしめ」的な妨害行為が念頭に置かれているのかもしれないが、どのような場合に「見せしめ」といえるのか。個別の番組での要求か、全般的な出禁の要求かでも評価は変わってくるだろうか。

いずれにせよ強者と弱者という対立の「一歩先」を見据えた議論が必要だろう。

テレビ局が芸能事務所に忖度する事情:独占禁止法違反の境界線

ジャニーズ事務所に対する公正取引委員会の「注意」に続き、吉本興業の「契約書の不存在」疑惑に関して同委員会幹部が問題視するなど、最近、芸能事務所に対する独占禁止法の適用が注目を浴びている。直近ではマツコ・デラックスさんの事務所がジャニーズ事務所の意向を忖度するかのような姿勢をとっていたとして週刊誌で報じられ(「ジャニーズ幹部の稲垣「舞台潰し」とマツコ「共演拒否」」)、同時に本人の反論が掲載されている。

公正取引委員会の対応に、「それ見たことか」「けしからん」という声が強いが、「だから何だ」「なにが問題なのか」という声も一方である。気になるのが、後者の理由である。ジャニーズについては、公正取引委員会の対応が「注意」にとどまったことが大きい。公正取引委員会は「違反行為の存在を疑うに足る証拠が得られないが、違反につながるおそれがある行為がみられたときには、未然防止を図る観点から「注意」を行ってい」(公取委のウェブ・サイト「よくある質問コーナー(独占禁止法)」Q27)る。「違反行為の存在を疑うに足る証拠」がないということは、違反摘発という意味ではそのスタートラインにすらつけなかったということを意味する(「公取委がジャニーズ事務所を注意〜「圧力」とは何か?」参照)。未然防止の必要性についてはジャニーズ側にどれだけ非がある話なのかは、「注意」という事実だけから何ともいえないのが実情である。

吉本の場合、「コンプライアンス」に拘泥することへの警戒の声が少なくない。例えば、古舘伊知郎さんは「四角四面の道徳警察にならない方がいい、つまらなくなる」と述べている(「古舘伊知郎、吉本騒動に対する世間の目に「四角四面の道徳警察にならない方がいい、つまらなくなる」)。どんぶり勘定的な契約スタイルも、それはこの業界にとって不可欠な要素であるかのような物言いをするベテラン芸人も見かける。どちらにしても独占禁止法や下請法に本当に違反するのであれば、無視すべきコンプライアンス問題であるとは到底思えない。特に吉本擁護に関しては、「四の五の言うな」という開き直りの風潮が強いようにも思える。

さて、話をジャニーズに絞ってその競争の構造を考えてみよう。テレビ局に対してあからさまな圧力をかけて競合するタレントを排除しようとしたという独占禁止法の格好のターゲットとなるような話から、マツコ・デラックスさんのように「テレビ局は使いたくない」といった、そもそものニーズの有無のレベルの問題だ、という見方もあるだろう。

使いたくないタレントは使わない話なのか、使いたいタレントも使えない話なのか、独占禁止法違反の有無を考える上では非常に重要な違いだ。前者ならば、契約相手の「自由な選択」の問題であり、これを独占禁止法上問題視することはナンセンスである。いい商品を売って競合他社が排除されたのであれば、それは競争原理そのものだ。後者の場合、状況を二つに分けて考えるべきだろう。

第一は、競合するタレントを排除するようにテレビ局に働きかけて意図的に仕組んだ場合。この場合、独占禁止法の門を完全にくぐっている。第二は、「忖度」の言葉にあらわれるように、事務所からの明確な働きかけはないがテレビ局が事務所の顔色を伺うような場合。多くの人は、第一の状況が「空気」の中で行われている場合を想起するだろう。その空気の醸成にどれだけ事務所が加担したかが問われることになろうが、しかし違反の証明には苦労するだろう。

それだけではない。忖度の言葉の裏には、テレビ局が事務所に対して「何かを期待する」思惑も見え隠れする。例えば、ある事務所のタレントばかりを出演させることで「信頼関係」を構築し、将来的にも安定的にその事務所の有望株や次世代のスターたちを出演させ続けることができる期待にテレビ局が「投資している」といえるケースである。いわば「お得意さん」になる、ということだ。そういった関係を構築するためには、事務所は次世代の売れっ子を養成するために弛まぬ努力をし続けなければならない。それが長期に渡れば渡るほど、この関係は強固になる。この場合、それ自体が競争だという見方ができる。あるメーカーにとって自社のプロモーションを必死でやってくれる小売店は「お得意さん」である。そういったお得意さんには常に最新のモデルや各種情報を積極的に提供するようにインセンティブをつけることもあるだろう。これは通常の流通戦略である。こういった行為がどこまで行けば競争に適う行為として説明できなくなるか、見極めは簡単ではない。そのメーカーが支配的であればあるほど独占禁止法の射程として「魅力的」なものになっていく。しかし、そういった行為は出発点としては真っ当な競争活動なのである。

公正取引委員会の「注意」という対応を読み解くためには、「(健全な)競争と(そうでない)独占の境界線」を見極めることが重要である。

独占禁止法を考えるにあたり、「「注意」されたのだからやましいことをやっているのだろう」などという解説では物足りなさ過ぎる。