独禁法、刑法の公契約関係競売入札妨害罪、談合罪、そして官製談合防止法いずれにおいても、「競争入札」という手続が用いられている以上、これに反する(競争を阻害する、ある
いは手続を侵害する)行為は、「容赦なく」違法とされ、犯罪とされてきた。かつては問題視されなかった時代もあったが、今では通用しない。なぜならば、「そこに競争があるから」だ。
談合に参加したとされる業者はこう反論する場合がしばしばある。この入札は単に形式的なものであって、実態としては受注者が最初から決まった状態にあり、競争を侵害したことにはならないと。確かに、発注者の意向から、あるいは技術的要因からある業者以外はそもそも受注の見込みがない状態はあり得る。しかし、少なくとも公共契約ではこの種の反論はまず通らない。発注者の意向が特定の業者の受注なのであれば、競争入札をする理由がない。特定の業者のみが受注できる案件と思っているならば他の業者は自発的に辞退すればよいだけなのであって相互に連絡をとり、調整をする理由などない。複数者応札という体裁を発注者は欲しがるだろうが、業者にそれを忖度する理由は本来ないはずだ。そもそも「競争のふり」はそれ自体競争入札を妨害する行為だ。
こういうケースもあり得る。発注担当者は当初、随意契約を念頭に業者の調整を試みていた。ある業務はある業者に、他の業務は他のある業者にと「割り振る」ことで計画通りの調達をうまくやろうとした。しかし会計法や地方自治法上、随意契約理由が立つと思ったが、後から横槍が入り、競争入札になってしまった。業者はある程度競争にはなるだろうと予想しつつも、既に調整済みなので「他の業者は入らないだろう」と思い、高値で応札した。結果、一者応札となり、高嶺落札となった。このケースは不当な取引制限として独禁法違反になるか。あるいは刑法犯や官製談合防止法違反を構成するか。
競争入札になった後も何らかの調整行為が存在すれば違反を構成し易くなる。独禁法違反ならば競争制限に向けた意思の連絡や相互の拘束が説明し易いし、競争制限それ自体もはっきりする。刑法犯や官製談合防止法違反についても「入札の公正を害する」といい易い。しかし手続変更の決定後何らのやりとりもなかった場合、悩むだろう。独禁法の場合、「暗黙の了解」型の構成も可能だろうが、これは発注者側主導の(それ自体合法の)調整行為が、競争制限を招いてしまっているケースだ。巻き込まれた側はたまったものではない。裁判例からは「独自の積算で、独自の判断で応札した」場合には意思の連絡が断絶されるということになるのだが、自社しかいないと思ってする応札行動と激しい競い合いが展開されると思ってする応札行動では違いが出てくるだろう。提案型のそれならば、そこにかける労力やコストも変わってくるだろう。「独自」といっても限界がある。その場合、応札を見合わせる、あるいは辞退するという判断をしなければ違反だ、というのであれば酷である。
民間入札の場合、もっと悩ましい。競争といっても体裁だけのものかもしれない。発注者の本音は違うところにあるかもしれない。それでも競争という体裁があれば、それに反する行為はすべて独禁法違反であるというのであれば、それはもはや狂信的ともいえる競争至上主義だ。この場合、立件しようとする当局は、二つの点を強調してくるだろう。一つが、民間といっても純粋に民間ではなく、公的色彩が強い発注者であるということ。そして一部の内部職員が組織全体の意思に反し暴走したケースだということである。