公共契約を通じた新しい官民協働のスタイル:日南モデル

 地方創生の鍵概念である「官民協働」

  伝統的建造物群保存地区として知られる飫肥城下町。日南市は、飫肥にある歴史的建造物の利活用に取り組む業者を募集し、応募者に対する書類審査や公開ヒアリングを経て、9月7日、交渉権者を発表した(Nichinan TV「飫肥地区古民家の利活用事業者が決定」)。今回決まったのは、小村寿太郎生家、旧高橋源次郎家、旧山本猪平家、商家資料館、そして旧伊東伝左衛門家の各歴史的建造物である。

 公共施設の維持管理についてはこれまでの国や地方自治体による直営から民間業者への委託に切り替えるのが最近の傾向である。公務員削減という止むを得ない事情もあるが、コスト意識に敏感な民間業者に委ねるほうが効率的だろうという「前提」がそこに置かれている。しばらく前に地方自治法の指定管理者制度が見直され、「公の施設」(住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設のこと)の管理業務への民間業者への参入が可能となったのも、そういった民間活力の積極利用の発想があってのことである。

 従来は官の領域と民の領域とは距離があったが、近年では官が民の知恵や経験を積極的に求め、民が官に積極的に働きかけるようになった。しばしば「官民協働」という言葉で表されるこのトレンドは、特に地域創生、地域振興に向き合う地方自治体の取り組みで、よく聞かれる。地方創生の鍵概念は「官民協働」といっても過言ではない。

日南市もこの「官民協働」を「売り」にする先鋭的自治体の一つだ。歴史ある港町である油津にIT系のスタートアップ企業を多数誘致し、地元商店街を活性化させたという話は、地方創生戦略のお手本としてよく知られている(「人の幸せのために地域がある まちづくり仕掛け人が見た日南市「油津商店街の7年間」」)。

 「官民協働」の初期設定はPFIだった

公共契約において「官民協働」といえばPFI(Private Finance Initiative)とほぼ互換的に用いられてきた(官民協働(Public Private Partnership)のイニシャルである「PPP」と併せて「PPP/PFI」などと表記されることが多い)。例えば、世界銀行は「官民協働」を「民間経済主体と政府機関とが長期の契約を通じて、民間経済主体がリスク負担と経営上の責任を負う一方、成果にリンクした報酬を得る形で、公共財・サービスの提供を行うこと」といった定義をPPPに用いており、OECD(経済協力開発機構)もほぼ同様であるなど、世界の主要な機関においては大方の一致は見られている。そこでいう重要な要素は、リスクとリターンに係る市場原理を採用していること、そしてそれが契約や協定によって明らかにされていることである。英国発祥のPFIはその先駆となったものであり、終始その中核として位置付けられていたものである。日本の内閣府に置かれた関連部署は「PPP/PFI推進室」と呼ばれている(PFI事業は「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)を根拠に実施されている)。

公共機関にとってのPFIの元々の狙いは、ざっくりいえば、初期費用の抑制にあった。政府が公共施設の建設から運営、メンテナンスを行おうと思えば、建設の初期費用がかかる。これを民間が自ら調達した資金で一連の事業を行ってくれるのであれば、公共機関はそれに対してその「利用料」のような形で対価を支払えば、財政支出を長期に渡り平準化することができ、その分財政が楽になる。それを入札のような競争的な形で業者を選定すれば、さらに効率化できるのではないか、そういった期待があった。

しかし、そのPFIは英国を含め、最近雲行きが怪しい。その最大の理由は、リスク負担と経営上の責任を負う民間経済主体がそのリスクを見誤り、経営上の責任を負い切れない事例が多発したためだ。簡単にいえば、市場の論理を利用すればその効率化作用のメリットを得ることができるが、一方で市場の不確実性や不安定性といったデメリットの影響も受けるということだ。完全民営化でもない限り、公共サービスを提供する責任が行政から消え去った訳ではないのだから、そのリスクは最終的には行政が負担することになり、延いては国民のリスクということになる。

重要なのは「利活用の創造性と持続性」:やり方はシンプルでもいい

公共施設の建設や補修だけなのであれば、通常の公共工事である。民間業者と工事請負契約を結べばよい。ポイントは管理(=運営)の方にある。指定管理者とPFI事業とは異なるものであるが、しばしば重なってみえるのは、いずれも公共施設の管理を直営から民間委託にするための選択肢であり、法令の改正によって可能となったスタイルだからである。

現在の論点は、公共施設を「どう利活用するか(させるか)」にある。少し前にPFI法の中に位置付けられるようになったコンセッション(物権としての運営権付与)方式は、施設運営に係る民間企業が果たす効率化作用を期待して、主として空港や水道といったインフラ(施設)の使用料等の徴収を認める代わりに運営権に係る対価を行政が徴収できる制度設計である(インフラ事業にコンセッション方式が成功するかについて疑問視する声もあり、海外では失敗事例も目立っている)。

このPFI法上のコンセッション方式で地方自治体が所有する歴史的建造物を宿泊施設として利活用した例が最近出てきたと聞く。そこでは、宿泊施設として利用するために地方自治体が改修工事を行い、整備を済ませた上で選定された運営業者に運営権を付与しているようだ。インセンティブを付与するために、当初一定期間の運営権料は免除しているという。

日南市の場合、10年間の賃貸借契約である。改修費用は業者持ちである。国登録有形文化財であったり、市指定文化財であったりすることから、改修、改築の際には関連するルールを遵守する必要があり、これに対して行政からのモニタリングがあるが、用途には相当の自由度があり、民間から創意に満ちたアイデアが提供され、公開ヒアリングを通じて交渉権者が決まったのである。相手は九州の顔である鉄道会社と、日本を代表する航空会社やフロントランナーとして知られる設計集団を含む共同事業体だ。評価されるアイデアの自由度が高い分、飫肥というブランドも相俟って、大手企業にとって自社のパイロット的な社会的事業として魅力を感じやすかったのかもしれない。

「民間への貸し出し」の発想は実にシンプルである。「官民協働」としてはPFI法とか改正された指定管理者制度よりも前のやり方だ。しかし、歴史的建造物の文化財としての保護のあり方を行政が事前に決め打ちするのではなく、民間の創意の中に解決を見出すのは実に先鋭的である。運営権の付与と同様、賃貸借の場合は収入原因になる。一定期間賃借料を免除しても市にはマイナスにならない。何よりも賃貸借というその手法がストレートでシンプルだ。

地方自治体における「官民協働」の解答は、実は意外にも分かりやすいところにあるのかもしれない。新しい、手の込んだ制度はこれまで制約があったことを実現するための技術として存在するのであって、場面を問わず新しい制度を使えばそれが解答になる訳ではない。特定の手続に拘って却って身動きが取れなくなるケースもある。重要なのは、その地方自治体が自らの資源を見極め、その魅力を評価し、その可動域の中で外部からの創意を引き出すことにある。官と民がパートナーシップを結ぶことそれ自体に意味があるのではなく、それが「創造的」で「持続可能」なものであるところが真のポイントになる。ここでいう「創造的」とは単なる「効率化に向けた工夫」に止まらない地域創生へのより本質的なヴィジョンに係るものであり、「持続可能」とは単なる「ビジネスの期間」ではなく、その地域の発展への強いコミットメントを意味する。そこから生み出される新しい価値が行政の、企業の、そして市民の共有財産になる。それを歴史の町、飫肥で実現しようというところに日南の戦略が見て取れる。やり方はシンプルでいい。

日南の挑戦は続く

冒頭に紹介した公募事業は初めてのものではない。すでに先行する事業では営業が始まっている。日南市所有の歴史的建造物である、築約140年の「旧小鹿倉邸」を利活用してできた「Nazuna 飫肥 城下町温泉」がそれである。これも10年間の賃貸借である。日南の選択はパイロット事業から本格展開の段階に入ったということだ。

「創客創人」は日南市の戦略のコア概念である。それは「様々な分野において、今あるもの、資源の中から、人々が望む価値を見出し、それを実現する製品やサービスなどを創り出し、『新しい需要=客』を創り、その客を幸せにする仕組みを創れる人財を育てる」というものだ(日南市HPより)。飫肥城下町のプロジェクトはその象徴的存在だ。今回、歴史的建造物の利活用事業に参与することとなった人々は、日南市を支えるプレイヤーとしてこれから多くの客と人を創り出すことだろう。

豊かな山林と温泉に恵まれた北郷、風光明媚な海の自然を誇る南郷、進化した港町・油津、南九州を代表する名勝・鵜戸神宮、そして飫肥城下町・・・。日南市には「創客創人」の潜在性に満ち溢れている。

令和を象徴する仕掛け人、﨑田恭平市長率いる日南市の挑戦は続く。

予定価格の積算ミス:業者にとっては死活問題

日本の法令では公共契約に際して予定価格を設定することが義務付けられている。価格の安さで勝負する公共調達の契約においては、予定価格は「上限価格」として機能し、最低価格自動落札方式の場合、この予定価格を超えない範囲で応札業者中、最低価格を提示した業者が落札者となる。

 この予定価格で積算ミスが発生した場合どうなるか。こんな記事(「県発注工事で積算誤り~予定価格より低く、契約は継続:三重」)に接した。

三重県は8日、工事の予定価格を実際よりも低く積算して業者と契約したと発表した。業者との契約後に誤りが発覚。正しい予定価格で入札をすれば別の業者が落札した可能性があるが、県は「落札者が契約の継続を希望している」とし、入札をやり直さない方針。

同記事によれば、「県によると、積算を誤ったのは鈴鹿市内の農業用水路を整備する工事。四日市農林事務所の担当者が一般競争入札の予定価格を積算した際に材料費の一部を計上し忘れ、予定価格は実際より155万円ほど安い約2億1229万円とな」り、ある業者が1億9756万円で落札したが、その後、「入札に参加した別の業者から県に指摘があって積算の誤りが発覚。県は入札参加者に謝罪し、事情を説明した」とのことである。予定価格が事後公表なので、正しい予定価格を前提に応札価格を決めた業者が、後から指摘したのだろう。

(価格以外の要素も考慮する)総合評価落札方式が採用されているのであれば、事情は変わるが、記事の書きぶりからすれば影響の範囲は価格に対するそれに限定されているようだ。最低価格自動落札方式でも総合評価方式でも同じ問題が発生しているということだろう。

この予定価格の積算ミスが入札の結果に影響を及ぼすとすれば、実際の落札状況を見る限り、積算ミスによって本来であれば最低制限価格に一番近かった業者がそれを下回ることで「失格」となり、より高い業者が落札する結果となる、というものだろう。最低制限価格は予定価格にリンクしている。三重県もこの件についてそのホームページで公表しているが、そこには言及していない。もしかしたら低入札調査基準価格なのかもしれないが、問題の本質は変わらない。

発注者からすれば本来失格となるべき業者と契約したことになり、最低制限価格制度の趣旨からすれば大いに問題だ。落札を逃した業者からすれば「死活問題」となる。ただ上記記事では「正しい予定価格で入札をすれば、より近い金額で入札した別の業者が落札した可能性があるが、県は再入札をせずに現状の契約を維持する。」とだけ記載されており、これでは「予定価格に近い業者が・・・」と読めてしまう。

予定価格の積算ミスは、競争が激しい場合には下限価格に集中するのでちょっとしたミスが結果に重要な影響を及ぼす。復興需要等の特別な要因がないと、公共工事の発注量は過去に比べて随分と少ない。少ないパイの奪い合いの状況のところが多い。業者にとって死活問題だ。昔であれば、不満を抱く業者には随意契約を出すとか、下請けに入れるように取り計らうような、官民間、民民間の「調整」もあっただろうが、コンプライアンスに厳格な今、そういう訳にもいかない。調整が効かなければ法的紛争のリスクがその分、高まることを意味する。

三重県は、「本⼯事は契約を締結しており、受注者には帰責性がないこと、再度の契約⼿続きを⾏った場合には来季の営農に⽀障が⽣じること等を勘案し、現契約を継続します。なお、⼊札に参加した全ての事業者の⽅々に対し、謝罪及び事情説明を⾏いました。」と説明しているが、やり直すほどの重大なミスではなかったということか。

この件がどのような結末を迎えるかは分からないが、行政は過去には想定されなかったリスクに晒されているという現実を改めて認識させるケースであるといえるだろう。