関西電力発注の原発関連建設工事と独占禁止法

関西電力役員の金品受領問題への追及の声が止まない。事態の収束を図って行った先週の同社会長、社長による記者会見も、収拾がつくどころか逆に炎上させてしまった感さえある。どこか他人事のような、開き直りの態度に多くの視聴者、読者は呆気にとられたに違いない。

原子力発電所が存在する地元高浜町の元助役と、関係する工事の発注元である関西電力幹部との金品のやり取りは、元助役が顧問を務めていたとされる地元建設会社の存在が指摘されることで、工事費用の私的な循環として語られるようになった。

独占禁止法研究者である筆者は、元助役が関係するこの建設会社への関西電力による発注が、「仕組まれた競争制限」の結果であるかどうかに関心がある。情報が限られた中ではあるが、独占禁止法違反の成否に関する論点を提示しておこう。

民間発注における競争制限行為と発注者の責任

民間企業であれば、、調達の相手方を競争的に探すかそうでないかは、本来は、その自由の範疇である。会計法や地方自治法が公的発注機関に競争入札の採用を「法的に」要請しているが、民間企業の場合、(WTO政府調達協定の対象企業のような例外的なケースを除き)そういった法的要請はない。しかし、電力の卸売、小売が自由化されたとはいえ、地域の電力供給において、独占的な地位を有し、電気利用者が負担する電気料金によって事業が成り立っている電力会社に対しては、公正な競争による調達が強く求められてきた。

このような要請を受け、会社として、公正な競争による調達にコミットしている場合には、会社が、公共調達に準じた競争的発注を行うことを自ら義務付けているとみることができよう。実際、電力会社の多くは、行動規範などで「公正な競争による調達」の方針を掲げている。

そのような電力会社の調達に関して、受注希望者間で競争制限の合意が認められれば、独占禁止法違反として業者は処罰、処分の対象となる。さらに、電力会社側が発注者として競争制限に関与していた場合にはどうなるか。

関西電力発注工事での談合事件での発注者への「申し入れ」

関西電力の調達に関しては、5年前、架空送電工事の工事業者及び地中送電工事の工事業者が、関西電力発注のこれら工事の発注案件について、価格の低落防止及び機会の均等化を図るために受注調整を行なっていたとして、公正取引委員会が排除措置命令、課徴金納付命令を行なっている(「関西電力株式会社が発注する架空送電工事の工事業者及び地中送電工事の工事業者に対する排除措置命令、課徴金納付命令等について」(平成26年1月31日)(公正取引委員会ウェッブサイトより)。

これだけであれば(民間企業発注工事の)ただの談合事件であるが、注目すべきは発注者である関西電力側が受注業者側の受注調整に関与していた、という事実が公正取引委員会によって認められていたという点である。

(1) 関西電力は、架空送電工事及び地中送電工事を発注するに当たり、指名競争見積等の参加者を一堂に集めて現場説明会を行っていたところ、指名競争見積等に参加した工事業者の営業担当者は、現場説明会終了後に引き続いて、指名競争見積等の参加者間において受注予定者を決定する話合いや当該話合いの開催に当たっての日程調整等の話合いをしていた。

(2) 関西電力の設計担当者のうち、当該現場説明会の場等において、前記(1)の営業担当者の求めに応じ、契約締結の目安となる価格を算出する基となる「予算価格」と称する設計金額又はそのおおむねの金額(以下「予算価格等」という。)を、非公表情報であるにもかかわらず教示していた者が多数みられた。

(3) 関西電力の設計担当者の中には、前記(1)の営業担当者に対し、予算価格が記載された発注予定工事件名の一覧表を、非公表情報であるにもかかわらず提供していた者がいた。

(4) 関西電力の購買担当者の中には、地中送電工事の発注に係る指名競争見積等の参加者の選定に当たり、各工事件名における参加者の組合せについて事前に特定の工事業者に相談していた者がいた。

(5) 指名競争見積等の参加者は、関西電力の設計担当者から教示された予算価格等を、受注予定者が提示する見積価格を定める際の参考にするなどしていた。

(6) 受注予定者を決定する話合いを行っていた者の中には関西電力の退職者が29名おり、このうち少なくとも14名は、関西電力の設計担当者から予算価格等の教示を受けていた。

これが公共工事であれば明らかな官製談合防止法違反である。公正取引委員会はこうした事実を問題視し、関西電力に再発防止策を講じ、発注制度の競争性を改善してその効果を検証することを求める異例の「申し入れ」を行なっている(以上、上記公正取引委員会ウェブサイトより)。関西電力は、その申し入れの翌月にプレスリリースしその検証結果と再発防止策を公表している(「架空送電工事および地中送電工事の設計・発注業務における調査結果および再発防止対策について」(平成26年2月4日、関西電力)。

高浜原発関連工事発注と独占禁止法の適用

今問題になっている高浜原発関連工事についてはどうだろうか。情報があまりにも断片的で、限定的であるので、推測の域を超えないが、考える道筋はいくつか提示できる。

建設会社が関西電力から工事を受注するルート(契約手続)にはいくつかある。大きく分けて、特命発注(公共契約でいえば特命随意契約)によって直接受注するルート、そして何らかの形で他社との競争を通じて受注に至るルート(公共契約でいえば競争入札や企画競争といわれるもの)がある。報道では「特命発注」の方が注目を浴びているが、最初から発注者自身が競争要素を排しているので「不適切」という批判はあっても独占禁止法違反の射程からは遠ざかるように思える。しかし、本来であれば競争的に契約者を選定すべきところ、あるいは従来競争的に契約者を選定していたところ、受注業者が発注業者に圧力をかけたり、虚偽の情報を吹き込んだり、あるいは癒着したりして、特定業者への特命発注を実現、継続させるようなことがあれば、それは私的独占規制や取引妨害規制の射程に入ってくるように見える(公共発注においては、前者として東京都の医療用ベッド発注に係る競争業者排除事件であるパラマウントベッド事件があり、後者としては農水省東北農政局発注の公共工事をめぐる発注者側からの不正な協力による受注が問題となったフジタ事件がある)。

競争入札のような競争的な手続が採用されていた中で特定業者への人為的、恣意的な受発注が仕組まれていたのであれば、それは談合行為として不当な取引制限規制の対象となる。仮にこれが刑事事件になり発注者側の関与があったというのであれば、関与した発注者側の人間も共犯として刑事罰の対象となり得る(過去に、発注者が不当な取引制限の共犯の刑事責任を問われた事例として、1995年の下水道事業団発注の電気設備工事をめぐる談合事件がある。)。

では発注の実態はどうなのだろうか。平成30年9月11日作成の「調査委員会報告書」によれば、平成26年9月1日から平成29年3月31日までの間、元助役が顧問を務めていた当該企業が関西電力から受注したのは原子力事業本部分については22件、うち12件が競争的手法によるもの、10件が特命発注となっており、京都支社分については8件ありいずれも特命発注となっている。この内、特命発注分についてはいずれも「工事遂行にあたっての地元精通度の高さ」「工事現場との関係での立地条件のよさ」などといった理由が挙げられている。競争入札が原則化されている公共工事の場合、それだけの理由で随意契約が正当化されることは滅多にない、ということはここで指摘しておくべきだろう。

競争的な手法についてはどうか。上記報告書によれば関西電力の契約発注に関しては指名競争を原則とし、原子力関連の発注では若狭地域における取引先選定(指名)にあたって、地域共生、地域振興の観点から地元企業を優先しているとされている。指名競争においては最低価格自動落札方式ではなく、最安値の見積金額を提出した業者との間で、関西電力側が算出した査定価格に近づけるように交渉し、合意に至った場合には契約となるとのことである。指名の段階で優先される地元業者の候補(高浜町内における関西電力の土木工事の登録取引先)は二者だが、そのうち一者は「浚渫等の海周りの工事を得意としており、受注できる工事が限定的である」とし対象外となっている。元助役が顧問をしていた企業は「土木工事全般に対応する能力があ」り、「多数の元請受注実績をもっている」ことを理由として取引先選定の対象となっている。

ここに競争入札のあり方としていくつかの疑問が生じる。指名にあたって地域共生、地域振興の観点から地元企業を優先する方針があり、その方針が他の応札業者にも知られているのであれば、それは唯一の地元指名業者である当該企業が競争入札における「本命」であるというメッセージとなり得、他の業者が「忖度した」応札行動をとりかねない。ここで暗黙の了解型の不当な取引制限のシナリオは否定できない。そもそも地元企業でない指名企業とはどのような企業なのか、その企業の応札行動はいかなるものだったか、辞退率はどのくらいか、そういった情報を、関西電力側が明らにしていない以上、この唯一の地元業者ありきの競争入札だったといわれても、致し方あるまい。

報告書によれば、関西電力側は「発電所情報や、実施の見通しを得た工事について、工事物量や工事概算額等を自部門で算出し、または元請会社から聞き取るなどして、工事概要を取り纏め」、元助役との面談に臨んだという。地元自治体の幹部であれば、何らかの面談の必要は当然あるが、確定ではない「概算額」であっても他の企業が知らない工事に係る内部情報である以上、案件によってはその後の競争状況に影響がないとはいえない。また、立場上内部情報にアクセスできるというメッセージ自体、暗黙のうちに受注予定者が誰であるかを認識させる機能を果たすといえなくもない。この場合も公共契約であれば、法令上アウトといわれても文句はいえないだろう。独占禁止法についていえば、それは競争制限行為を助長する行為といわれかねない。

 

関西電力の調達方針との関係

関西電力のホームページ(「関西電力 調達基本方針~CSRを踏まえた調達活動~」)には「調達活動の行動基準」が掲げられており、そこでは、「透明性の高い開かれた取引」「コンプライアンスの徹底」が謳われている。そして「取引先のみなさまへのお願い」として「透明性の高い開かれた取引」の項目中に「競争制限的行為の禁止」の記載があり、「コンプライアンスの徹底」の項目中に「全ての関係法令およびそれらの精神の遵守、教育の実施」「不正の防止、撤廃」の記載がある。これは「資材調達」に係る方針として掲げられたものだが、当然、工事一般についても当てはまるものである。5年前の公正取引委員会からの申し入れを考えたらなおさらである。

「資材調達情報」をさらに見ていくと、「2019年度主要調達計画」という項目で、次の記述が目に入った。

また、計画が未確定のものや用地事情等により掲載していないものがあります。

「用地事情」とはどういうことだろうか。これは原子力発電所の立地のことをいうのだろうか。確かにこの項目中、「原子力機材」の欄はない(参考までに中国電力の調達情報には「原子力機器」の項目が設けられており情報が公開されている)。そういった点から、関西電力は調達の行動基準を定めておきながら「用地事情」などといって原子力発電所関連工事を特別扱いしており、会社として、調達手続の例外を容認しているのではないか、という疑念がわく。この会社の対応は上記でみた独占禁止法上の諸々の疑問にリンクしてくる。こうした疑念を解くべく関西電力はどう答えるか。

取引先に透明性とコンプライアンスの徹底をお願いするならば、まず自らを律するべきだ。何よりも関連する情報の透明化を求めたい。第三者委員会が新規に立ち上げられ、さらなる検証が行われるというが、上記の問題にまで踏み込めるのだろうか。問題はもはや会社設置の機関の射程を超えたレベルにまで達しているのではなかろうか。

 

独占禁止法違反が成立する場合の「犯罪の実体」

不当な取引制限の疑いがあるという前提で話を進めると、独占禁止法違反としての制裁や処罰の必要性に関連して注目すべきは、関西電力のケースは「発注者側への多額の金品の還流」が問題になった事案だということである。その「還流」が、関西電力からの受注によって事業者側が得た超過利潤の一部であることは容易に想像できる。

カルテル、談合等の独占禁止法違反が事業者に、常に不当な利益をもたらしているかといえば、そうではない。実際に、多くの違反で、「原材料価格上昇を転嫁しただけ」とか「ダンピングによる共倒れ防止のため」などという正当化の主張が行われてきた。そうした中では、発注者側に還流するほどの超過利潤が生じている競争制限行為は極めて特異である。仮に、事業者側の独占禁止法違反や発注者側の共犯が成立する場合には、行政処分では対処しきれない、まさに「犯罪の実体」を備えた行為と評価される余地もある。

所管官庁、公正取引委員会、そして検察当局がどう動くか、注目である。

青梅談合事件無罪判決を読む

9月20日、東京地方裁判所立川支部で、談合罪事件に対する無罪判決が下された(「青梅市談合、元建設業協会長に無罪判決 東京地裁立川支部」毎日新聞2019年9月20日)。

公共調達法制の研究者である筆者は、この事件で専門的見地からの意見書を裁判所に提出し、裁判所の決定により証人として公判廷で証言をした。

意見書作成に当たって、弁護人から事案の概要を聞いた時点で率直に思ったのは「そもそも何で談合罪として事件にしたのか」ということだった。

そもそも業者が「談合」したというが、同会長は被指名業者の一部にしか連絡しておらず、それ以外の業者の出方が全くわからない状況にあった。この程度の行為で刑法犯たる「談合」になるのが不思議で仕方がない。

同会長が指名業者数社に連絡したことは事実のようだ。しかし、それは、入札参加者間の受注希望を調整するためではなかった。条件の悪い、割に合わない案件を、入札不調で発注者の青梅市に迷惑がかかることを懸念した建設業協会会長の被告人が、責任感から受注したものだった。

こんなケースでは、談合罪を定める刑法96条の6第2項にいう「公正な価格を害」する目的を認める余地がないのではないかと考えていた。無罪判決が当然の事件のように思えた。結果は、予想通り、無罪であった。

積極的な受注意思がある業者同士がぶつかれば、価格面においては安さの競争になる。競争が激しければ激しいほど割りが合わなくなり、受注調整をするインセンティブが高まる。受注調整は一般的に予定価格付近への価格吊り上げとなり、「公正な価格」すなわち競争価格より高くなる。そこに、談合罪という犯罪の財産犯的な処罰価値がある。そういう「価格引き上げ」の要素がないのであれば、談合罪が成立する余地はない。

驚いたことに、筆者が、専門家証人として証言を求められたのが、同種工事の落札率の平均と本件工事の落札率を比較することで、本件工事の受注価格が「公正な価格」よりも高いことを証明することが可能かということであった。工事にはそれぞれ条件も特性もあり、同種工事の落札率を平均して「公正な価格」を算定するなどということは凡そ不可能であることを証言したのは言うまでもない。

判決では、類似工事といっても「様々な工事があり、難易度や採算性、さらには競り合いの状況もそれぞれ異なるものであるから、同種工事の落札率と比較し、本件工事の落札率がそれに比して高いからという結果だけで、被告人に公正な価格を害する目的があったと推認されるとはいえない」と一蹴されている。そもそも検察官がこんなところに論点を見出そうとしたこと自体、理解に苦しむといわざるを得ない。

この事件は検察側の完敗である。ここまで検察の主張が判決で否定れるのも珍しかろう。それも滅多に無罪判決など出ない談合罪の事件で、である。

何故、このような結末に至ったのか。

そもそもこの事件、公共契約や公共工事についての相応の理解があれば事件そのものになっていなかっただろう、ともいえそうだ。裁判所は学んだが、検察は学ばなかった。そういう評価ができる事件ではなかろうか。

この事件では、談合の事実を全面否認していた被告人が、80日ももの期間勾留され、心身ともに疲弊して、初公判では全面的に事実を認め、その後、弁護人が交代して無罪主張をするに至ったとのことだ。まさに、「人質司法」によって、有罪側に「堕ちる」寸前だったという。想像するだけでも恐ろしい。検察には、このような過ちを二度と起こさないよう反省してもらいたい。