高校生と独占禁止法

公正取引委員会が全国の大学で独占禁止法の出張講義を行っている、という話はよく聞くが、先日、高校でも出張授業を行なっているというニュースに接した(中国放送「高校生が “経済のルール” 学ぶ 公正取引委員会が出前授業」)。

大学教員の重要な活動の一つは、大学の魅力を高校(生)にアピールすることだ。高校から依頼があれば講義に出向き、オープンキャンパスでは大学に高校生が集まり模擬授業を聴講する。なかなか差別化するのは難しいが、少しでも大学の雰囲気に触れてもらいたいと努力する。

筆者は2003年から関西の大学で、2007年から今の大学で教鞭を執っているが、各々で複数回、出張講義、模擬授業を担当した経験がある。経験上、法学を高校生に講じるのは難しいと感じているし、特に独占禁止法を高校生に教えるのは難しいと感じている。

「競争の番人」という月9のドラマが話題になった。高校生にこの分野の存在をアピールする絶好のチャンスだ。あの坂口健太郎が出ている、というだけで十分キャッチーだ。大学の講義でもなかなかの反応である。このドラマのお陰で随分と助かっている。

しかし、独占禁止法を若い学生に教えるのには、なかなかハードルが高い(と感じることが多い)。日本史や世界史を選択した学生が多いだろうと思って、「GHQの経済民主化政策として「独占禁止法」という言葉が日本史の教科書に出てきますが・・・」とか、「政治経済の教科書では独占禁止法は戦後の福祉国家政策として登場しますが・・・」とか、高校時代に学んだ知識に引き付けようとするが反応は限定的だ。筆者自身も日本史も世界史も勉強したが、全く楽しくなかった口なので、そんな話を学生にしても反応が薄いのは止むを得ないところか。もちろん筆者の教えるスキルの問題もあるのだろう。

独占禁止法は自由競争社会の基盤を担う立法である。現代史における資本主義と社会主義の対立と融合という話に絡めても面白いなと思って授業で触れてはいるが、致命的なことに、日本史も世界史も高校時代における学習において「現代史」「戦後史」が希薄である。日本の昭和史、戦後史におけるマルクス主義の話をしてもピンときてくれない(日本の戦後史におけるマルクス主義の隆盛は特筆すべきものがあった。詳しくは、拙著『昭和思想史としての小泉信三』(ミネルヴァ書房)を参照頂きたい)。

大学生は「現代」「戦後」の歴史に疎い(もちろん勉強熱心な学生はいる)。現代の40代、50代が共有している知識が、10代から20代前半には共有されていない。同じことは、私たちが20歳前後の時もいえたことではある。私たちも学生の頃、上の世代が共有している歴史の知識に疎かった。

一昔前であれば、授業で学生が理解できなければ学生が不勉強だといわれた。今は、授業が分かりにくければ教員の教え方がよくないといわれる。どうすれば受講生が楽しんで学んでもらえるか、日々、試行錯誤の毎日である。