官製談合:実刑か執行猶予か?

9月27日のNHKのニュース(「五條市議に懲役2年の実刑判決 官製談合などの罪で奈良地裁」)より。

五條市にある総合体育館の備品の入札などをめぐり、特定の業者に不正に落札させたなどとして官製談合防止法違反などの罪に問われた五條市議会議員に、奈良地方裁判所は懲役2年の実刑判決を言い渡しました。

この記事によれば、この「五條市議会議員…は平成28年と翌年、五條市の総合体育館の備品の入札などをめぐり、市側と業者側の橋渡し役を務め、入札参加業者に金額を指示するなど特定の業者に落札させたとして官製談合防止法違反などの罪に問われてい」たとし、「

これまでの裁判で、弁護側は再犯のおそれはないなどとして執行猶予付きの判決を求めていたのに対して、検察側は主導的な役割を積極的に果たした首謀者で刑事責任は重大などとして、懲役3年6か月を求刑してい」たとしている。

 これだけ見て、官製談合防止法違反でとうとう実刑判決が出た、と思ってしまった。しかし、その後の記述を見ると、「私腹を肥やすために積極的に官製談合を仕組んで実行したあまり類を見ない事案だ」との判決が引用されている。ということは収賄罪でも同時に有罪になったのかと思って、他の記事(ABCニュース「奈良・五條市議に懲役2年の実刑判決 体育館備品の入札めぐりあっせん収賄」)を見るとこう書かれていた。

 奈良県五條市にある市立体育館の備品の入札をめぐって特定の業者に不正に落札させたとして、あっせん収賄などの罪に問われている市議の男に実刑判決が言い渡されました。

要は冒頭の引用中の「官製談合防止法違反など」の「など」に「あっせん収賄」が含まれていた、ということだ。通常、「官製談合防止法違反など」といった場合には「公契約関係競売入札妨害罪」が含まれていることが多いので、こういった事件に見慣れていると、そう直感的に思ってしまう。官製談合事案で収賄が伴ったから実刑。それは事案次第だ。しかし、収賄の罪が伴わない官製談合事案で実刑というのであれば、判決のインパクトは大きい。やはり、官製談合防止法違反単体では執行猶予、収賄が伴えば実刑の可能性あり。「官製談合防止法違反、あっせん収賄の罪で…」と書けばいいものを、何故、冒頭のNHKの報道は「収賄」の言葉を示さなかったのであろうか。

官製談合防止法は公契約関係競売入札妨害罪(旧競売入札妨害罪)や談合罪よりも公務員としての職務違背の性格が重なる分、法定刑が重くなっている(懲役刑に関して後者が「3年以下」なのに対して後者は「5年以下」)。つまり、3年を超える懲役が本罪単独であり得るということであり、そこでは執行猶予に馴染まないケースが想定されているということだ。しかし、実際の実務を見てみると、数年前までは官製談合防止法違反罪については、収賄が伴わないケースでは例外なく略式で罰金という処理だった。ここ数年では懲役刑が通常化しているが、この罪単独で実刑というケースが出てこない。「公務に違反しただけなら、競争を妨げただけでは執行猶予」、「私腹を肥やしたなら実刑」という線引きがあるのだろう。

官製談合防止法違反には二つのタイプがあると思う。一つは「発注業務を円滑に遂行したかった」、つまり「よかれと思って」やったケースである。一般的には理解し難いが、業界内ではよく出てくる話だ。もう一つは「私腹を肥やす」ケースであり、一般的な官製談合防止法違反のイメージはこちらだろう。一つ注意しておきたい点は、罪としての収賄が成り立たないケースであっても後者の性格を有するものがあるということだ。イメージしやすいのは「見返りとしての天下り」が分かりやすい。すなわち長い時間をかけての報酬の提供だ。

根深いのは「縁故主義」だ。自らが利益を得なくても誰か縁故のある業者が利益を受ける。そのネットワークの中で間接的にどこかで自分が利益を得る。それは直接的な利益の交換ではない、どこかで世話をし、世話をされるというソフトな貸し借りで成り立っているインナー・サークルの論理で成り立つ世界だ。「民間からの行政への登用」が積極的に推進される中、そういった「収賄」にはならない公共の財産の捕食(略奪)の問題はもっと強調されてよいのではなかろうか。