「全国津々浦々」という言葉がぴったり合うのが、近年の官製談合事件だ。2月13日のニュースでは、沖縄県竹富町発注の公共工事(海底送水管更新工事)で同町長が秘密とすべき入札情報を業者側に漏えいしたとして同町長と受注会社関係者ら複数の人物を逮捕した、という。容疑は、お馴染みの官製談合防止法違反だ。同日の沖縄タイムスの記事では以下の通り報じられている。
海底送水管更新工事は20年5月28日に開札され、東京に本社を置くエネルギープラント会社が6億7千万円余りで落札。開札調書によると、落札価格と最低制限価格が極めて近似している。予定価格は7億3700万円。
具体的に何を漏洩したかはわからないが、最低制限価格に関連する情報であることは明らかだ。これまで何度も指摘したように、官製談合といっても業者間の談合を前提にするものではなく、官民間の癒着という意味での官製談合の事案である。業者間の談合の実態があるのであれば、「落札価格と最低制限価格が極めて近似」するのではなく「落札価格と予定価格が極めて近似」するものである。もしかしたら談合崩れの結果としてこうなったのかもしれないが、いずれにしても典型的な談合の事件ではないことだけは確かである。
同記事は続けて、「地元関係者によると・・・町長は町議時代から受注会社幹部と親しく、町長となってからも酒席をたびたび共にする様子が目撃されていた」とし、「捜査2課は談合容疑に加え、その見返りとして金銭や物品の授受が無かったかも慎重に調べる」と結んでいる。情報漏洩で得をするのは業者側であり、それだけだと発注者側にメリットがない。発注者側違反者の個人的利益を疑うのは当然の流れである。
地方自治体の規模からすれば7億円の工事というのは極めて大きいものである。海底送水管更新工事というものの難度がどの程度のものか分からないが、入札だけではなく工事全体のプロセスに当該業者が深く関わっていた可能性もある。発注者側が十分に発注業務をコントロールできていない場合、競争入札という手続は発注者にとってリスク要因にもなり得る。もちろん競争入札という手続を採用した以上、この手続に反する行為は官製談合防止法が禁じる「入札等の公正を害すべき行為」になるのは明白である。最低制限価格付近での落札だから被害はない、という反論があるのかもしれないが、特定の業者を不正な手段で秘密裏に優遇しているのであるから、やはり競争は歪められ、公正は害されているということになる。
おそらくではあるが、地元では入札の結果があまりにも不自然だ、と話題になっていたのだろう。不満な業者が情報提供したのかもしれない。しかし、行政のコンプライアンスが厳しく問われるこの時代、「酒席をたびたび共にする様子が目撃されていた」とはどういうことか。ここ数年、「全国津々浦々」で官製談合事件の容赦のない摘発が相次いでいるが、ある地方のある首長が危機意識を持たないほどに入札の不正が「全国津々浦々」で蔓延し、発覚率はまだまだ低い状態にあるのか。あるいは、「やめられないとまらない」事情があるのか。
最後に一箇所、上記記事に気になる箇所があった。「町長は送水管工事の入札における最終決裁者で、最低制限価格などは本人しか知り得ない立場にあった」というのがそれである。町長「のみ」が知り得る、とはどういうことか。この表現だと町長自ら最低制限価格の詳細な額を決定し封をするということになるが、そういうことなのだろうか。